「ふんわりと飴玉食べよ」
昔、家族と遊園地に行ったことがある。ジェットコースターに乗りまくっていた。今は怖くて乗れない。高所から落ちたら死ぬと、当時知らなかったとしか思えない。風景が滲みながら後方へ吹き飛ばされていく快感。自分が暴風だと信じて疑わなかった。
「どうしたの?」
大人になってから怖くなったのは、高所だけではない。お化け屋敷も怖くなってしまった。先ほど彼氏に連れられ、人が脅かすって分かってるんだから! と意気込んだものの、怖いものは怖かった。無理。足ガックガクである。
「連れ出すからでしょ」
「でも怖いの苦手って知らなかった」
「わたあめ買ってきて。私の機嫌が直るよ」
「アッツ。ストロベリーとプレーン味買ってくる」
おうっ頼んだ! 言いながらベンチで足を休ませた。怖いもの知らずの子供の頃は、一体どこにいったんだろう。子供心が育って大人になったというより、私から子供心が家出した感じだ。
彼氏はわたあめを買おうと列に並んでいる。スマホをいじりながらも、たまに手を振ってくる。こういう無邪気な感じが好きだ。こんなかわいい彼氏がいてよかった。そう思いつつ、私はそんな無邪気な子供心はないんだよなあと思う。
私という入れ物に、子供心を抜いて大人心を入れたとする。なら、彼氏は上手くそれらを共住させている。子供ながら大人。私はそうはなれなかった。
「はいわたあめ。どっちがいい?」
手渡された白と赤のわたあめ。何かどこかで同じ光景を見た気がした。子供の頃だっただろうか。親から渡されたわたあめを、食べたくなくて泣いた気がする。
ジェットコースターで暴風だった私は、もう雲でさえ友人だった。かわいい勘違いだけど、私はわたあめを雲だと思っていた。友人を食べたくなかったのだ。
「うーん」
「どっちも食べたくない?」
「いや。子供の頃わたあめを友達だと思ってたから」
「今は?」
「もう砂糖の塊ってわかってるから。全然食べれるよ。いちごがいい」
どうぞ、と手渡されたわたあめは、甘くて美味しい。家出した子供心に罪悪感を抱きつつ、私は砂糖の塊をバクバク食べた。
「でもほら。こうやって手でまとめると、ほら、なんか飴玉みたいじゃん」
砂糖を紐状から固形に戻しただけだった。
「ねえ、汚い。あとそれが友達だったらグロい」
「うはは、そうかも」
砂糖の塊。そうやって思うけど、それは大人になって知ったこと。当時は知らなかったから、これが友人だったらグロいことや、そもそもベタベタして汚いこともわからなかった。でも、知っていくと、こうやって目の前の人と笑える。いいね。
「ふんわりと飴玉食べよ」




