装飾された偶像.
夜も更けてきた頃。俺はそろそろ家に帰れるということで胸を撫で下ろしていた。死体をいくらか轢いてしまったので緑の車体には赤茶がべっとりとついている。
「洗車だるいなこりゃ、ま、仕事にゃ間に合う。」
その時、雲がふとアーカイブの上からずれて青白い光が差し込んだ。少し先の道に立っている人影ひとつが照らされる。俺はそいつにどこかでみたような懐かしさを感じた。俺はあの寂しげな背中は記憶の中のあいつにあまりにも似てたから。神様として俺と隔離された寂しげな、あいつに見えたから。俺は近くにバイクを停めて、走り出していた。
「こんなゴミ溜めにマフィア様が。迷子ですかい」
「...そうかもね」
そいつはこっちに目もくれないで、ぶっきらぼうに答えた。やはり此奴はメディシンだ。あちらは俺だと気づいていないようだが。何を話していいかわからなくなり、俺は適当に天気...というか事実を並べた。
「アーカイブ...綺麗だな」
「あれが綺麗に見えるかい?」
「今日は満ちに満ちているしな。サルファーの黄色、この星にはお似合いじゃないかね。」
「サルファーか、物はいいようだね。」
あまりに此奴が俺と気付かれないのでちょっとずつ踏み込んでみることにした。
「...俺宝石が好きなんだ。高価なブツじゃなくて、綺麗なモノが。それ言ったらどっかのバカなやつが俺の目に合わせたアクセサリー寄越そうとしたこともあったなぁ。」
無論どっかのバカとはメディシンのことだ。俺の瞳は赤と緑のオッドアイ。それに合わせてアレクサンドライトのネックレスを俺に買おうとして、普段は窘められるだけなのだが珍しくユエンに怒られていた。
「ふぅん、幾分モテるんだね。」
「そのバカにだけ、な。」
「その言い種、もう居ないの?」
「いいや?多分死んでない。」
「多分って...じゃあ危険な仕事でもしてるのかい?その子は。」
「知んね。でも今の会話が夢か、俺の独り言じゃない限り生きてるぜ」
そこまで言ってやっとそいつは俺の方に目を向けた。俺の姿を見て、目を見開いて、俺に抱きついた。
「おいおい、返り血ついてんだから汚れるぞ」
「だってぇ...ナツちゃんだとは思わないじゃないかぁ」
「取り敢えず離れろよっ、と」
「ナツちゃん、前とあんまり変わらないね。」
「お前が成長しすぎなだけだろ、性別ちげえんだしんなもんだわ。」
「こんなとこで何してたんだよ。あのキチガイ宗教がまんまマフィアになったのは知ってる。」
「実は高速道路で事故に巻き込まれてねぇ、僕が事故に遭ったことを隠匿するために色々あって、今は一人で歩いて戻っているところだったんだよ。」
「あれやっぱお前んとこのかよ...」
案の定高速道路でのいざこざは「お偉いさん」が関わっていたようだ。俺はメディシンが乗っても大丈夫なようにバイクの血を軽く拭い始めた。
「ナツちゃんはあれからどうしてたんだい?」
「まー、色々行った。運び屋、雑用とか、今は日雇いだな」
「ごめんね。きっと怖かっただろう」
「気にしてねえよ。ユエンの野郎に拾われたのが奇跡だっただけだ。今は自分の手で生きてけてる。」
「だとしてもだよぉ。ナツちゃんはこんなにちっちゃいし、すぐ死んじゃいそうで僕は心配してるんだ」
「ちっちゃいは余計だバカ。大体お前は俺に対して過保護すぎんだよ」
「大事なものを囲うのは普通じゃない?それにそうはいっても君は僕から離れて行こうとはしかったじゃないか。今だって僕のためにバイク拭いてるでしょ。」
「くそっ...黙ってりゃ顔はいいのに。ほら、バイクの準備できたから乗れ。」
「ありがとう。」
「ん、」
此奴に俺の内心を覗かれたようで恥と苛立ちが出てきたのでバイクのスピードを限界まで上げて、俺らは夜のゴミ溜めを抜け出した。風が顔の熱をもってくみたいだった。




