日の目を浴びる星.
昔の人々は披露する、という華々しい意味で「日の目を浴びる」という言葉を使ったらしい。なんと皮肉なことだろう。いまでは日を浴びることは不名誉なことなのだ。ここは惑星カルネア。唯一実体を持つ狭き星だ。ほとんどの人間は電脳化し、夜に一際輝いて見える金の星、アーカイブに設置された。ここに残ったのは、限られた物資と少しの文明と人とも数えてもらえない俺のような肉体を持つ人類、エッジャーだけだ。電脳化した連中は、自分たちをマテリアルと呼ぶ。資料だなんて、生きた誇りはないのだろう。マテリアルたちは痛みも老いも知らない。飢えることも、寒さに震えることもない。だが俺たちエッジャーは違う。腹は減るし、血も流れる。老いていき、そしていつか必ず死ぬ。カルネアは、そんな連中の掃き溜めだ。犯罪者。落伍者。金がなかっただけの奴。それから――俺みたいに、犯罪者の思考回路を持つかもしれないとマザーコンピュータ、オラクルに判断された人間。
「おい、仕事中だぞ。ぼーっとすんな。」
「さーせん。」
取引相手に後頭部を叩かれて、俺は顔を上げた。カルネアの空気は、昼夜問わず冷え込んでいる。ボロい建物とネオンの看板、それからろくでもない連中ばかりだ。ここはラストポート、ギャングの仕切る街。俺の今日の仕事はここに荷物を運ぶこと。もっとも、この地区で荷物の中身を聞けば射殺されても文句は言えないのでただ粛々と仕事をこなす。
「この荷物、あっちの建物でいいんすよね?」
「ああ。あの建物のエントランスに頼む。」
今日の仕事は普通でよかった。ギャング総本部とかが頼んだ場合、運び屋の口封じをするのが基本だ。こんな簡単な仕事ですら命がかかるので安楽死を望むものもこの星では少なくない。
「ご依頼ありがとうございましたー。」
サクッと今日の仕事を終わらせ、給料もいただいたところで俺の住まいのある都市部、ロイヤルヤードに向かうため、ライダースーツを着てバイクに跨った。
「うっそだろおいおいおいおい...んでこんな下道混んでるんだよ、」
カルネアの風はよく冷える。昼間にバイクを走らせた時の爽快感は言うまでもない。しかし夜は立ち止まっていようと皮膚を刺すような寒さに襲われる。今日も普段通りあまり混まない下道で帰ろうとしたらこれだ。少しイラつきながら交通情報を調べると高速道路で事故が発生し、通れなくなっているようだった。
「これワンチャン朝帰りか?てか明日の仕事ロイヤルヤードでのだった...さっさと帰んねぇと。」
何かいい案はないだろうかと考えていると交通情報の通知があった。先の事故のことだった。
「ギャングの車と一般車が事故...?こりゃ確実になんかあったな」
こんな小さな事故で高速の通行が止まることは基本的にない。ギャングと一般人...と書いてあるがギャングの方が御偉いだったか一般人がなんらかのお忍びか。この騒動は簡単には終わらないだろう。人の群れは進む気配がなく、バイク一台といえど縫って進む隙間も少なかった。手段は選んでいられない。俺は腹を括った。
「あまり使いたくない手だったがダストベルトをつっきろう、明日は5時起きかぁ」
この星は北にギャングの仕切るラストポート、南にマフィアの仕切るロイヤルヤード、中央に一次産業の区画とゴミ溜めのダストベルトと区切られる。その一次産業区画とダストベルトの境に道があり、安全に行き来ができるよう整備されている。ダストベルトはお世辞にも安全とはいえない、ホームレスや盗賊が集うスラムだ。ゴミが散乱し、犯罪が跋扈する無法地帯。通ると血やゴミで汚れるので翌朝の洗車は必須になる。俺は明日の優雅な朝を諦めて道路の脇をハイスピードで飛び越えてダストベルトへ突っ込んだ。




