【漫才】「女子大生キョンシーと二月の年中行事」
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にピョンピョンとね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「いやはや、蒲生さん。早いものでもう二月になっちゃったね。昔から『一月往ぬる二月逃げる三月去る』とは言うけど、あれって本当だよね。」
ツッコミ「台湾から来日したキョンシーの貴女が、よくそんな言い回しを知ってたね。」
ボケ「まあ、私も勉強したからね。」
ツッコミ「向学心旺盛なのは良い事だよ。」
ボケ「お陰さんで、よう勉強させて頂きますわ。何しろお得意さんあっての私らでっしゃろ。『売り手良し、買い手良し、世間良し』の『三方良し』は、近江商人の心意気ですわ!」
ツッコミ「近江商人じゃないでしょ、貴女は!でも確かに『一月往ぬる二月逃げる三月去る』は秀逸な表現だよね。この時期は色んな年中行事やイベントがあるから、あっという間に過ぎちゃうイメージがあるよ。」
ボケ「特にこの二月は私達にとって物凄く重要なイベントがあるからね。準備に夢中になっていたら、あっという間に時間が経っちゃうよ。」
ツッコミ「へえ、貴女もなかなか隅に置けないじゃないの。確かに手作りでやると、チョコレートの湯煎とかでなかなか手間が掛かっちゃうからね。」
ボケ「ん、チョコレート?まあ確かに最近はチョコレート味の湯円もあるけどね。」
ツッコミ「えっ?湯円って確か、お団子だよね?向こうじゃそういうの食べてるの?普通のチョコレートは食べないの?」
ボケ「食べるよ、コインみたいなお金の形をしたチョコレートなら。あれは金運アップの縁起物だからプレゼントに喜ばれるんだ。」
ツッコミ「流石は風水大国の台湾、年中行事のプレゼントにも縁起を担ぐんだね。」
ボケ「こういうプレゼントは元町の御隠居様や島之内の姐さんにも喜ばれるんだよ。『儂らの若い頃はチョコレート菓子も高級品じゃったが、時代は変わったのう…』ってね。」
ツッコミ「わあ、歴史の重み…御二人とも大昔から活動されている古参のキョンシーだから重みが違うね。」
ボケ「重みを求めるなら子泣きジジイにでも当たってよ。私達キョンシーは軽やかなジャンプが持ち味なんだから。」
ツッコミ「跳ねなくて良いよ!そもそも物理的な重みじゃないって!まあ、そうしたプレゼントをさり気なく渡すのも良いけど、この時期特有のイルミネーションの下で渡すのもムードがあるよね。」
ボケ「そうそう!赤と金のランタンや提灯で幻想的になってね!」
ツッコミ「えっ、ランタン?」
ボケ「それに花火や爆竹を街角で豪快にぶっ放して、それはもう賑やかで華やかで…」
ツッコミ「ちょっと待って!話がすれ違ってるよ、私達!」
ボケ「そう?この時期特有の行事の話で、バッチリ噛み合っていたと思うんだけど…」
ツッコミ「多分だけど、私達は別々の行事をイメージしているから話がすれ違っていると思うの。だから何の行事を話していたか『せーの』で言ってね。」
ボケ「分かったよ、せーの!」
ツッコミ「バレンタインデー!」
ボケ「春節!」
ツッコミ「ほら!やっぱり違った!」
ボケ「なーんだ、蒲生さんが言ってたのって新暦二月の『西洋情人節』の話だったんだね。」
ツッコミ「えっ、台湾だとバレンタインデーって『西洋情人節』って言うの?しかも『二月の』って事は他の時期にもあるの?」
ボケ「何しろ七夕シーズンにも情人節があるからね。単に『情人節』とだけ言うと紛らわしいんだよ。もっとも、春節の方が大切だから冬の情人節は影が薄いんだ。」
ツッコミ「そっか…時期が近いと確かにそうなるよね。考えてみたら、同じ二月の行事でも節分よりバレンタインデーの方を優先しちゃうよ。」
ボケ「待って、蒲生さん!節分はキチンとやっておいた方が良くない?」
ツッコミ「貴女ったら意外と真面目なんだね。」
ボケ「何しろ節分には、季節の変わり目に邪気が入って来ないようにする悪霊祓いの意味もあるからね。やらないと縁起が悪くなるよ。」
ツッコミ「貴女が邪気とか悪霊祓いとか言っちゃうの?貴女、キョンシーなんだよ!蘇った死者なんだよ!」
ボケ「やだなぁ、蒲生さんは。私みたいな無邪気で人畜無害なキョンシーをつかまえて、そういう事は言わないでよ。」
ツッコミ「そりゃ確かに、貴女はあんまり死者らしくないけど!」
ボケ「そんな事は無いよ。むしろ、こんなに死者らしい格好は無いと思うけど?」
ツッコミ「そう言う事じゃないって!そりゃ確かに暖帽と官服を着て霊符を貼ってたら、誰が見てもキョンシーと一目瞭然だけど…」
ボケ「でしょ?こうして一目でキョンシーと分かる格好をしないと色々と面倒なんだ?」
ツッコミ「えっ、面倒ってどういう事?」
ボケ「考えてみてよ。私が普通のブラウスとスカートを着て青白い顔で両手を突き出してる姿を。同じ死者でもゾンビか幽霊に見間違えられるじゃない。」
ツッコミ「確かにゾンビも幽霊も両手を突き出してるけど!」
ボケ「やっぱり、そこは白黒ハッキリつけたいでしょ?」
ツッコミ「生者の私には今一つピンと来ないよ、そんな死者の線引きは。第一、貴女は顔色が真っ白じゃない。」
ボケ「これは血の気が失せているから『青白い』と言って欲しいな」
ツッコミ「て言うか話が脱線し過ぎだから、そろそろ戻って来てよ。」
ボケ「おっと、いけない!話が随分と脱線しちゃったから巻き戻さないとね。それじゃ変な折り目がつかないよう慎重に…」
ツッコミ「コラコラ、額の御札を巻こうとするのは止めなさい!」
ボケ「良し、巻き戻し完了っと…どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!って、最初の掴みの所まで巻き戻してどうすんのよ!」
ボケ「だけど節分にも美味しい物が色々あって楽しいじゃない。福豆とか恵方巻きとか。」
ツッコミ「だからって何事も無かったように再開しないでよ!でも、そう言えば確かに久しく豆撒きとかしてないかも…」
ボケ「それで豆撒きの後は数え年の数だけ食べるんだけど、元町の御隠居様や島之内の姐さんとかは大変なんだよ。百個以上食べないといけないんだから。」
ツッコミ「そう言えば御二人は清代末期から活動されているんだっけ。だからといって律儀に食べなくても良いんだよ。」
ボケ「でも今の節分ならまだ良いよ。節分のルーツである追儺の儀式なんか、もう大変なんだから。」
ツッコミ「そんなに大変なの、その追儺って儀式?具体的に教えてよ。」
ボケ「ちょっと待って、今スマホで調べ直すから。」
ツッコミ「ちょっとちょっと!貴女ったら相変わらず暖帽にスマホを収納してるの?」
ボケ「ここにあると邪魔にならないんだよ、蒲生さんもやれば?」
ツッコミ「私はキョンシーじゃないから暖帽なんて持ってないよ!貴女達だけだよ、暖帽をハンドバッグ代わりにしているのは…」
ボケ「あっ!ちょっと電池残量が心配だな、それなら…」
ツッコミ「えっ、モバイルバッテリーまで入れてるの?最近は爆発事故が社会問題になっているから気をつけてよ。」
ボケ「そうそう、せっかく契約したんだから外でも活用しないと。」
ツッコミ「今度はポケットWi-Fi!そりゃ確かにデータ容量は心配かも知れないけど…」
ボケ「そして最後に…」
ツッコミ「えっ!まだ何か出すの?」
ボケ「さあ、蒲生さん。手を出して。」
ツッコミ「えっ…何これ、黒糖のど飴じゃない。どういう事?」
ボケ「待ってる間、それでも食べて喉を労ってよ。」
ツッコミ「本番中だよ、今は!そもそも貴女、暖帽の中に飴なんか常備してるの?」
ボケ「ああ、島之内の姐さんから勧められたんだ。『冬場は空気が乾燥して喉に悪いし、夏場は塩が不足するやろ。せやから美竜ちゃんも、普段から飴ちゃんだけは欠かさんようにしとき。』ってね。」
ツッコミ「その人、本当にキョンシーなんだよね?何だか私には大阪のオバちゃんにしか思えなくなってきたわ…」
ボケ「えーっと、まずはこのキーワードで検索して…むしろAIに聞いてみるのも良いかな。」
ツッコミ「それにしても…清代の官服を着たキョンシーがスマホでネット検索、しかもモバイルバッテリーとポケットWi-Fiをフル活用だなんて…何とも凄い光景だわ。」
ボケ「あっ、あった!特にこの、豆の代わりに桃と葦で作った弓矢で鬼を追い回す所なんか厄介だよ。この追儺の儀式のままだったら、私達キョンシーは二月の町をおちおち歩けないよ。」
ツッコミ「そっか、貴女達キョンシーは桃が苦手なんだよね。」
ボケ「何しろ道教の道士は凶暴キョンシーを倒すのに桃の木の剣を使うからね。私達は穏健派だけど、どうも桃は苦手なんだよ。」
ツッコミ「それじゃ三月のひな祭りシーズンは辛いんじゃない?何しろ桃の節句だから。」
ボケ「辛いなんて物じゃないよ、もう散々!」
ツッコミ「三月三日だけに散々…これはお後がよろしいようで。」
ボケ「ボケ潰しは止めてよ、蒲生さん!私のボケを取らないで。」
ツッコミ「アハハ!これは何時ぞやのツッコミ潰しの意趣返しだよ。」
ボケ「成る程、意趣返し…」
ツッコミ「って、霊符を裏返そうとするんじゃありません!」
二人「どうも、ありがとうございました〜!」




