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魔王軍中間管理職ですが、2年連続で勇者が来るのは聞いてません  作者: 鹿樋歩
1章

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今日も一日よろしくお願いします

魔王軍南支部。アリヴ王国南のリンド地方に構えられたこの拠点は、この一帯を魔王軍の領地として支配すると共に、今なお抵抗を続ける人間たちと戦うための砦である。


 支部は数体の管理職と彼らを統括する四天王(してんのう)をはじめとした多くの魔物により構成されており、リンド地方各地から寄せられる情報などをもとに、この地を魔王軍領土として維持する為に様々な業務を行っている。


 私が任されている『支部長』という役職は四天王に次ぐものであり、南支部全体を管理するのが主な仕事となる。基本的にどの支部も四天王が戦闘面を担当し、諸々の手続きや計画などは支部長以下の役職が務めるのがポピュラーだ。


 つまり私は南支部のブレインを任されているのだが就任してまだ数ヶ月の私には手に余る仕事も多く、周りの魔物たちに助けてもらうことがよくある。早く頼られる支部長になり、この不甲斐なさとはおさらばしたいと思う。


 私の自室はオフィスの一角に面しているため、扉を開けると同僚の魔物たちがすぐこちらに気付いた。彼らは睡眠を摂らないため多少なりとも疲れがあると思うのだが、そんなことはおくびにも出さない。


「おはようございます、ミドラ支部長!今日も時間ぴったりですね。バナナ食べますか?」


「ありがとうございます、いただきますよ」


「今日も一日よろしくお願いしますね、支部長」


「ええ、よろしくお願いします」


「すみません支部長、この前指示していただいたこの件なんですが」


「戦闘部隊の装備新調の件ですね。経理部へ話を通してありますから、一度相談してみてください。スムーズにやり取りできると思います」


 自室からデスクまでの数十メートルの道のりで、何体もの職場の魔物たちから声を掛けられる。前任の支部長の魔物柄の良さもあるのだろう、南支部には気さくで友好的な魔物たちが多く配属されている。仕事外の世間話が苦手な私でも居心地の悪さを感じないので、とても助かっている。


 デスクに着くと、私が寝ている間仕事を引き継いでくれていたアライゼさんが各部署から寄せられた資料に目を通し、必要なものに印を押してくれていた。引き継ぎに支障が無いよう、常に仕事の進捗はアライゼさんに共有しているので、特別検討が必要でない要項に関しては彼女に判断を任せてしまう場合も少なくない。


 私の足音に気づいたのか、アライゼさんの垂れていた耳がピン、と立つ。彼女の種族は兎がルーツとなっているらしく、聴力には自信があると言っていた。資料に釘付けになっていた彼女の黒い瞳がこちらを捉える。


「ご苦労様です、アライゼさん」


「あれ、ミドラ支部長!おはようございます!もう六時になってたんですね。全然気付きませんでした!」


 アライゼさんがデスクから立ち上がり、デスクに広げていた資料を丁寧にまとめて差し出してきたので、それを両手で受け取りデスクに座る。


「どうでした、なにか新しく仕事が入ったりはしませんでしたか?」

 

「いえ、なにも。以前第二砦の戦闘部隊募集に応募してきた魔物たちのリストが届いたので承認の印を押しておきましたが、問題ありませんでしたか?」


「ええ、一度目を通したものですから。ありがとうございます」


「でしたらよかったです!そうだ、ミドラ支部長。目覚めの一杯にコーヒーお淹れしましょうか?」


「そうですね、お願いしましょうか」


「はい!すぐ持ってきますー!」


 アライゼさんが軽くスキップをしながら去っていった。彼女の種族は他の種を凌駕する跳躍力を日頃持て余しているのだと聞く。雄の魔物であれば戦闘に出てその跳躍力を発揮してもらうことも出来るが、人間同様、我々魔物も雌雄によって力などに差がある。彼女には今の仕事が最適だろうと思っていた。


 できれば本能に逆らわせず自由に働かせてもらいたいとは思っているのだが、以前テンションが上がったアライゼさんが職場で飛び跳ね回ってあちこちの書類がバラバラに混ざり合ってしまった事があり、それ以来職場で飛び跳ねたい時はスキップ程度に留めてもらうようにお願いしている。


 それにしてもアライゼさんの溌剌(はつらつ)さは見習わねばといつも思わされる。確認作業が主になるとはいえ、書類仕事は色々と気疲れしてしまう事が多いというのに、彼女は難なくやってのける。


 一度私と同じように、睡眠による休息の時間を設けてみてはどうかとアライゼさんに持ちかけてみた事があったのだが、


「いえ、私は元気が取り柄ですから!適度ににんじんを食べさせていただけるなら、他に何もいらないです!」


 と笑顔で返されてしまった。彼女がそれで良いというなら強制はしないが、いつか休暇をあげられたらとは思っている。


「お待たせしましたー!お砂糖は一つでよろしかったですよね?」


 いつの間にかデスクまで帰ってきていたアライゼさんに満面の笑みを浮かべながら手渡されたカップを受け取り、頷き返す。


「ええ、いつもありがとうございます。いただきます」


「では、私は他の業務に移りますね。今日も一日よろしくお願いします!」


「はい、よろしくお願いしますね」


 ぴょんぴょんと小気味よく小さく跳ねながら自分のデスクへ戻っていく彼女の背を見て、私の性格は自分のルーツによるものなのだろうかと、意味もないことを考えてしまう。薄暗いところを好むネズミをルーツに持つから、私は内省的な性格になっているのではないか、などと。


 そんなことはどうでも良い。今日も考えねばならない事が山ほどあるのだから。ほのかに優しい香りがするコーヒーを一口飲み、アライゼさんからいただいた資料に目を通し始めた。

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