ぼくらの謎解きデイズ4:クラスメイトの純粋な愛が、お菓子と一緒に街を木っ端微塵に吹き飛ばした件
安物のウイスキーが、やけに喉に染みた。
窓の外では、九月の長雨がアスファルトを叩き、ネオンの光を滲ませている。俺の探偵事務所は、そんな眠らない街の片隅で、ただ息を潜めていた。机の上に散らばるのは、一枚の写真。大手化学企業の研究所長が、ズタズタに引き裂かれた姿で発見された事件の資料だ。警察は「薬品管理のミスによる不慮の事故」として幕引きを急いでいる。だが、写真に写る男の顔は、苦痛よりも深い、ある感情を浮かべていた。
絶望だ。
その表情を見た瞬間、俺の脳裏で、錆びついた記憶の扉が軋みを立てて開いた。甘い菓子の匂い。鳴り響く警報。そして、子供の目にはあまりにも凄惨すぎた、あの光景。そうだ、俺が初めて「人間の絶望」を間近で見たのは、遠い昔、まだ自分が探偵ごっこに夢中だった、あの忌まわしい社会科見学の日だったんだ。
すべては、あの工場から始まった。
・・・・・・・・・・
「すげえ!見てみろよ、ユウタ!ロボットアームだ!」
リーダー格で力持ちのタカシは、巨大な機械が規則正しく動く様子に目を輝かせた。隣にいる物知りで冷静なヒロキも、さすがに興奮を隠せないように頷く。
「未来みたいだな!なあ、アカリ?」
タカシが声をかけたのは、僕らのチームの紅一点で勝気なアカリだ。彼女は少し腕を組んで、フンと鼻を鳴らす。
「まあ、すごいけど…。お菓子が作られていくところ、ずっと見てたら飽きそうじゃない?」
そんな僕らの後ろから、冷静な声が響いた。
「これは産業用ロボットだ。プログラムされた動きを正確に繰り返すことで、製品の品質を保つことができる。未来というより、現代技術の結晶だよ」
声の主は、やっぱりヒロキだった。彼はいつも分厚い本を読んでいて、大人びた口調で話す。タカシ、ヒロキ、アカリ、そしてごく普通の僕、ユウタ。
小学三年生の僕らは、自らを「東京少年探偵団」と名乗り、まだ見ぬ大事件の解決を夢見ていた。
今日は、社会科見学で最新鋭のお菓子工場に来ていた。甘い匂いが立ち込める工場内は、子供の好奇心を刺激するには十分すぎるほど魅力的だ。ガラス張りの通路から、ベルトコンベアで運かれていくクッキーの生地を眺めていると、引率の田中先生が手を叩いた。
「はーい、みんなー!静かに!これから工場長さんが、この工場について説明してくださいます。しっかり聞くように!」
やがて、白衣を着た優しそうな顔の男性が、マイクを持って僕らの前に立った。
「や!みんな、こんにちは!私がこの工場の工場長、佐藤です。今日はね、美味しいお菓子ができるまでの秘密を、皆にね、たくさん、お見せしたいと思います」
工場長がにこやかに話し始めた、その時だった。
「ぬ…ぅあ……あああ……」
突然、工場長の背後から、呻き声のようなものが聞こえた。見ると、作業着を着た別の男が、苦しそうに喉を押さえている。
「どうしました!?」
工場長が駆け寄ろうとした瞬間、その男の体が、ありえない方向に折れ曲がった。まるで、内側から見えない力で全身の骨を砕かれているかのようだ。
皮膚が内側からの圧力に耐えきれず、まるで熟れすぎた果実のように裂けている。その裂け目から覗くのは、赤黒く変色し、蠢く筋繊維。まるで体内で無数の蟲が暴れ回っているかのように、男の身体は絶えず不気味に脈動していた。内側から、ゆっくりと、しかし確実に「解体」されているのだ。
「う…あ…ああ…っ!」
声にならない呻きが、溶解し原型を留めない舌の根から漏れ聞こえる。その両目は、狂乱の縁で燃え上がりながらも、必死に何かを探して空間を彷徨っていた。自らの肉体が崩れ落ちていく恐怖よりも、遥かに切迫した何かに突き動かされている。
「落ち着け! 大丈夫だ、今助けるから!」
善意に満ちた警備員の一人が、男の肩を押さえつけようとする。それが、間違いだった。
男は獣のような力でその手を振り払い、床を転がった。崩れゆく四肢を引きずり、何かを探して這い進む。その執念は、肉体の崩壊を凌駕していた。
「抑えて!横西!相澤!来い!救急車!だれか救急車をッ!」
「ぎ…ぎぎ…」
男の口から、言葉にならない音が漏れる。皮膚が内側から裂け、骨が軋む音が、マイクを通して工場内に不気味に響き渡った。子供たちの間から、甲高い悲鳴が上がる。
「な、なんだよ…あれ…」
タカシが青ざめた顔で呟く。僕も、目の前で起きていることが信じられなかった。男の体が、まるで粘土細工のようにぐにゃぐにゃと変形していく。指が一本ずつ逆方向に曲がり、腕が螺旋状にねじれていく。そのたびに、男は声にならない絶叫を上げた。
「ひっ…!」
アカリが僕の腕にしがみつく。勝気な彼女でも、こればかりは耐えられないらしい。その震えが、僕にも伝わってきた。
田中先生は、一瞬呆然としていたが、すぐに我に返って叫んだ。
「みんな!見るんじゃありません!こっちへ来なさい!早く!」
先生は必死の形相で、生徒たちを出口の方へ避難させようとする。しかし、僕らの足は、その場に縫い付けられたように動かなかった。恐怖が、体を支配していた。
男の口から、赤黒い液体が溢れ出した。舌が、まるで熱い鉄板の上で溶けていくバターのように、どろどろに崩れていくのが見えた。話す術を失ってもなお、男は何かを探すように必死に虚空を掻きむしっている。その目は、尋常ではない苦痛と、何かを必死に訴えるような切実な光を宿していた。
工場長や他の従業員たちが、悲鳴を上げながら男を取り押さえる。
「しっかりしろ!」
「誰か!誰か救急車を呼べ!」
怒号が飛び交う中、男は、その拘束を振り払った。人間とは思えない、異常な力だった。そして、床に転がっていた小さな箱に手を伸ばす。それは、手のひらサイズの黒い発信機のようなものだった。
「危ない!」
誰かが叫び、男からその発信機を力ずくで取り上げた。その瞬間、男の目が絶望に見開かれた。
再び数人がかりで男の体を押さえつける。今度こそ、男は振り払うことができなかった。
男の、爛々と燃えていた瞳が見開かれる。
僕は見た。その目に宿る色が、苦痛ではないことに気づいてしまった。
それは、純度100パーセントの、絶望だった。
「あ……ああああああああああ—————!!!」
言葉を紡げないはずの喉から、魂そのものが引き裂かれるような絶叫が迸った。
僕の脳裏に、最悪の可能性が閃く。あの発信機は、爆弾の起爆装置……なんかじゃない。あれは——停止装置。
工場全体を揺がす、鼓膜を突き破る轟音。
次の瞬間、世界が閃光で白く染まった。
彼の苦悶は、死の恐怖ではなかった。
託された使命を果たせないことへの、慟哭だった。
僕が意識を取り戻した時、目に映ったのは、黒煙を上げて燃え盛る工場の残骸と、泣き叫ぶクラスメイトたちの姿だった。幸い、見学通路は爆発の中心から少し離れていたため、僕らは奇跡的に全員無事だった。しかし、あの凄惨な光景は、僕らの脳裏に悪夢のように焼き付いて離れなかった。
数日後、学校が再開された。だが、教室の空気は重く、誰もがあの日の出来事を引きずっていた。テレビのニュースは、工場の爆発はガス漏れによる事故として処理されようとしていると伝えていた。あの男――警備員の鈴木さんという人だったらしい――は、突然原因不明の病で錯乱し、騒ぎを起こしたのだ、と。
「そんなはず、ない」
放課後の教室で、タカシがポツリと呟いた。残っていたのは、いつもの四人。東京少年探偵団のメンバーだ。
「僕もそう思う」
ヒロキが、腕を組んで頷いた。
「あの警備員さんの動きは、錯乱していたとは思えない。何かを必死に伝えようとしていた。そして、あの発信機…。あれが何か重要な鍵を握っているはずだ」
「でも、警察は事故だって…」
アカリが不安そうな顔で言う。
「大人がそう言うなら、そうなのかなって…」
「じゃあ、アカリは納得できるのかよ!」
タカシが声を荒らげた。
「あんなの見せられて、はいそうですかって!俺は無理だ!あのおっさん、何かから俺たちを守ろうとしてたんじゃないのか?あの発信機、爆弾のスイッチか何かで、それを止めようとして…」
「それだ!」
ヒロキが、タカシの言葉に鋭く反応した。
「もし、あの発信機が爆弾の“停止装置”だったとしたら?鈴木さんは、爆弾を解除しようと戦っていた。でも、周りの大人たちは彼が錯乱したと思って、それを取り上げてしまった。だから、彼は絶望して叫んだんだ。そして、タイムリミットが来て、爆発が起きた…」
ヒロキの推理に、僕らは息を飲んだ。バラバラだった恐怖の記憶が、一本の線で繋がった気がした。
「つまり、事故じゃない。誰かがわざと工場を爆破したんだ」
僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「そして、その犯人は、僕らの周りにいる大人の中にいる…」
教室に、重い沈黙が流れた。これから僕らが足を踏み入れようとしているのは、子供の遊びの探偵ごっこではない。本物の、殺人事件の調査なのだ。
「やるぞ」
タカシが決意を込めて言うと、ヒロキも、アカリも、そして僕も、強く頷いた。
「僕たちの手で、真実を突き止めるんだ」
こうして、「東京少年探偵団」の、この街を揺るがす最大の事件の幕が上がった。僕らはまだ知らなかった。この事件の背後には、この街に古くから根付く、悲しい因縁と、世代を超えた深い恨みが渦巻いていることを。そして、その底知れぬ闇が、自分たちの日常を静かに侵食していくことになるのを…。
爆発事件から一週間。街は少しずつ日常を取り戻していたが、黒く焼け焦げた工場の残骸が、事件の記憶を生々しく突きつけていた。僕たち「東京少年探偵団」の捜査は、難航していた。
「やっぱり、手掛かりが少なすぎるよ」
放課後、僕らのアジトと化した公園の隅で、タカシがため息をついた。
僕たちの調査で分かったのは、いくつかの事実だけだ。まず、爆発した「みなと製菓」は経営難に陥っていて、大手企業「東都フーズ」への売却話が進んでいたこと。そして、その売却を仲介していたのが、地元の市役所だということ。
「企業の乗り取りを恨んだ人の犯行って線かな」
ヒロキがノートに書き込みながら言う。
「でも、それならなんであんな回りくどい殺し方を…」
「もっと、個人的な恨みを感じるよね」
アカリがポツリと言った。
「あの警備員さんの苦しみ方、普通じゃなかったもの」
僕らは、調査の方向性を変えることにした。街の歴史そのものに、何かヒントが隠されているんじゃないか。そう考えた僕たちは、市立図書館の郷土資料室に通い始めた。
そこで、僕たちは衝撃の事実を知る。みなと製菓が建っている土地は、もともと「無慈谷」という一族が所有していた広大な土地だったのだ。しかし、五十年前、市の再開発計画という名目のもと、半ば強制的に、当時の市とみなと製菓の創業者によって安値で買収されていた。郷土史の本には、当時の無慈谷一族の当主が「いつか必ずこの恨みを晴らす」と言い残した、という記述まであった。
「無慈谷一族…」
ヒロキが呟く。
「五十年前の恨みが、今になって?」
「でも、ありえない話じゃない」
僕は言った。
「恨みって、何十年も消えないことがあるって、おじいちゃんが言ってた」
僕らは、みなと製菓の従業員名簿と、市役所の職員名簿を調べ始めた。もちろん、子供の僕らにそんなものを手に入れる術はない。ヒロキのハッキングまがいのパソコン技術と、僕が市役所に勤めるおじさんに「社会科の自由研究で」と嘘をついて手に入れた、古い職員名簿が頼りだった。
すると、奇妙な事実が浮かび上がってきた。みなと製菓の従業員にも、市役所の職員にも、「無慈谷」という姓の人間が何人もいたのだ。彼らは、五十年前の土地買収で土地を奪われた一族の末裔たちだった。
捜査が行き詰っていたある日の図工の時間。僕は、ふとクラスメイトの無慈谷聡のスケッチブックに目を奪われた。聡は、クラスの隅でいつも一人、黙々と絵を描いている物静かな少年だ。彼のスケッチブックに描かれていたのは、燃える前の、ありし日のみなと製菓の姿だった。そして、その工場の絵の隅に、小さく奇妙な紋様が描かれていた。それは、僕らが郷土資料室で見つけた、無慈谷一族の家紋だった。
放課後、僕らは聡の跡をつけた。聡はまっすぐ家に帰らず、街を見下ろす高台の、古いお墓に向かった。お墓には「無慈谷家之墓」と刻まれている。聡は、墓石の前にしゃがみ込むと、何かをぽつりぽつりと話し始めた。
「おじいちゃん、ごめんね。僕が、あんなこと言ったから…僕が、おじさんのこと、追い詰めちゃったんだ…」
涙声だった。僕らは息を飲んだ。聡の言葉は、彼が事件の何か重要なことを知っていると告げていた。
僕らは意を決して、聡に声をかけた。聡は僕らの姿を見ると、ビクリと肩を震わせ、泣きはらした目を大きく見開いた。
「君は、全部知っているんだね。事件のこと」
ヒロキが静かに、だが力強く言った。聡はしばらく黙っていたが、やがて、堰を切ったようにすべてを話し始めた。
聡は、土地を奪われた無慈谷一族の、本家の直系の末裔だった。数ヶ月前に亡くなった大好きだった祖父が、生前いつも悔しそうに「あの土地さえあれば」「みなと製菓の連中と役場の奴らは許せない」と語っていたこと。
そして、聡が学校の自由研究で一族の歴史を調べ、その悲惨な過去を知ったこと。聡は、その事実を、まるで物語の登場人物に感情入するように、叔父の健司に語って聞かせたのだという。
「僕、言ったんだ…『おじいちゃんは、正義が果たされるのを待ってる』って…『悪い奴らが罰を受けるのを、天国で見てるはずだ』って…」
聡は、純粋な子供の義憤と、亡き祖父への深い愛情からそう言ったのだ。だが、その言葉は、叔父の健司の中で、恐ろしい復讐の引き金になってしまった。
無慈谷健司は、化学系の企業をリストラされ、再就職もままならず、人生に絶望していた。彼は、自分たちの家族が貧しい暮らしを強いられているのは、五十年前の出来事のせいだと、心の底で燻らせていた。そこに、甥である聡の、純粋で、しかし力強い「正義」の言葉が注がれた。健司は、聡の義憤を、自らの復讐を正当化する「大義名分」だと歪んで解釈してしまったのだ。
数日後、健司が潜伏していた廃倉庫で、僕らは彼と対峙していた。僕らが警察に通報する前に、自分たちの言葉で、真実を伝えたかった。
「あの子の純粋な怒りに、俺は応えなければならないと思ったんだ…」
健司の傍らには、警備員の鈴木さんを殺害したのと同じ原理の、恐ろしい薬品が置かれていた。彼は元いた会社の知識を悪用して、人間を内側から破壊する液体を作り出し、さらに工場を爆破する計画を立てたのだ。警備員の鈴木さんは、健司の幼馴染で、彼の計画を止めようとしていた。しかし、健司は鈴木さんを裏切り者とみなし、口封じのために、薬品の最初の犠牲者にした。
「聡君は、復讐なんて望んでいなかった!」
僕は叫んだ。
「聡君は、大好きだったおじいちゃんのことを思って、悲しくなっただけだ!悔しくなっただけなんだ!子供が、悪いことは悪いって思う、当たり前の気持ちだよ!あんたは、その気持ちを利用しただけじゃないか!」
僕の言葉に、健司の強張っていた顔が、ゆっくりと崩れていった。
「聡は…ただ、じいさんのことが…」
「そうだよ!」
タカシが叫ぶ。
「あいつは、あんたに復讐してほしかったんじゃない!ただ、話を聞いてほしかっただけなんだ!」
健司は、その場に崩れ落ち、子供のように泣きじゃくった。愛する甥の、祖父への純粋な愛と義憤を、自らの黒い憎悪で塗りつぶし、取り返しのつかない悲劇を生んでしまったことに、ようやく気がついたのだ。
事件は解決した。だが、僕たちの心には、鉛のような重い塊が残った。僕らは、街に渦巻く、何十年も前の因縁と恨みを解き明かした。そして、その連鎖の果てに、一人の少年の純粋な愛が、最悪の形で利用されてしまった悲劇を知った。
僕らは、ヒーローになんてなれなかった。ただ、悲しい真実を掘り起こしただけだ。
事件の後、聡は遠くの親戚の家に引き取られていった。引っ越す日の朝、僕らは聡に会いに行った。聡は、僕らに深々と頭を下げた。
「ごめん…そして、ありがとう」
その言葉が、誰に向けられたものなのか、僕らには分からなかった。
僕たち「東京少年探偵団」の最大の事件は、後味の悪い、ひどく悲しい結末を迎えた。僕らは、この事件を通して知ってしまったのだ。この世界には、正義だけでは割り切れない、どうしようもない悲しみがあるということを。
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長い追憶から、俺は意識を事務所の薄闇へと引き戻した。グラスに残った琥珀色の液体をあおり、事件資料へと視線を落とす。
研究所長の、絶望を浮かべた顔。警察が事故として処理したがる筋書き。何もかもが、あの頃と同じ匂いがした。
聡君の、純粋な義憤と愛。それを叔父である健司は、自分の歪んだ復讐心を満たすための「大義名分」にすり替えた。そうだ、今回の事件も同じ構図じゃないのか。
被害者の研究所長は、環境保護を訴える過激な市民団体の標的になっていた。だが、その団体のリーダーは、利益のために平気で人を切り捨てるような男じゃない。理想に燃える、純粋な男だ。
——純粋。それこそが、罠だ。
リーダーの純粋な正義感を、誰かが利用したんだ。彼を神輿として担ぎ上げ、その裏で自分の目的を果たそうとしている黒幕がいる。研究所長を殺害し、その罪を市民団体リーダーになすりつけようとしている、本当の犯人が。
俺は、くわえていた煙草の火を灰皿に押し付けた。
あの頃の俺たちは、ヒーローにはなれなかった。ただ、悲しい真実を掘り起こしただけだ。
だが、今は違う。
コートを羽織り、ドアノブに手をかける。
雨はまだ、この街の罪を洗い流そうと降り続いている。
「…さて。」
ドアが閉まる乾いた音が、静かな事務所に響いた。