序章
目が明いた。
薄暗い照明の光が網膜を刺す。
反射的に手で光を遮断した。
ベッドに寝かされている。
ここはどこだろうか、一体何が起きたのだろうか。
記憶が曖昧だ、頭痛が酷い、眩暈もするし動機も激しい。
まるで、先程まで何か、恐ろしい何かがあった様な感覚だ。
ベッドから起き上がる、白い壁、白い天井、白い床。
無機質だが、どこか芸術的な様にも感じる。
病院に近い雰囲気だ。
辺りを見渡してみると、パイプ椅子に座って寝ている女がいた。
服装は西洋のメイド服に近い、この場所にはあまりにも不釣り合いな服装に少々驚いた。
寝ている所悪いが起こしてみよう、聞きたいことが多い。
肩を揺らして起こそうとしたが、手がすり抜けてしまった。
「????」
どういう事だ、今自分の手はこのメイド服の女の胸に突き刺さっている。
触れられない。
まるでそこに何も無い様に自分の手は空を切った。
そして、まるで霧が霧散するかの様にその女は消えてしまった。
理解が追い付かない。
今目の前に起きた非現実的な物事に脳がエラーを起こしている。
そして、その女が消えた後椅子の上を見ると、そこには、手首から上を切り離された人間の手が置いてあった。
思わず恐怖と驚きで顔が歪む。
俺はベッドから飛び上がり、急いでその場を離れた。
意味が分からない。
今は一刻も早く、この場所から立ち去りたい。
そして扉を見つけた。
どうやら指紋ロックが掛かっている様だ、俺はドンドンと扉を叩き声を荒げた。
「誰か!!!!誰かいませんか!!!!」
.........
返事が無い、辺りは静まり返っている。
助けが無い事を理解した俺は、一先ず冷静になろうと、息を吸った。
深呼吸をすると落ち着くと言うのはどうやら本当だったらしい。
冷静になった俺は一先ず指紋認証のロックに指をくっつけ、扉が開くか試してみた。
「まぁ、無理だよなぁ.....」
当たり前だ、そもそも俺はここに来ることさえ初めてなのにこれでドアが開いたらちゃんちゃらおかしい。
何かドアが開く方法を模索していると、ふと先程の手が目に入った。
嫌な想像が脳裏を過る。
だがどれだけ模索しても、これ以外に方法は見つからなかった。
俺はこの手首を手に取り、その手の人差し指を指紋認証のロックにくっつけた。
するとピコンと音が鳴り、カチャっと言う音とともに扉が開いた。
ビンゴ。
やはりそういう事だったらしい。
とても冒涜的な行為だが、一刻も早くその部屋を出たかった俺はその手首を持ち急いで部屋を出た。
部屋を出るとそこは廊下だった、だがこれまでと雰囲気が明らかに違う。
一気に西洋のお城の中に来たようだ。
豪華なレッドカーペットが敷かれており、シャンデリアがいくつも付いており、辺りを照らしている。
さっきの病院の様な部屋からは考えられない内装だ。
この建物を作った奴は何を考えて作ったのだろう。
そう思いながら廊下を進んでいくと、その内装に似つかわしくない、まるで研究所にあるかの様な扉を見つけた。
俺は半分好奇心でその扉に近づくと、また指紋認証のロックを見つけた。
この手首を持ってきて良かったと思い、人差し指をくっつけるとまたピコンと言う音と共に扉が開いた。
中に入る。
すると中には右手が欠損している女がこちらを向いて椅子に座っていた。
「やぁ、ごきげんよう」
その女はにっこりと怪しい笑顔を作りながら立ち上がり、こちらに近づいてきた。
「こんにちわ、初めまして」
礼儀正しくお辞儀をし、返事をしてみる。
この女がこの場所の管理人だろうか、その様な雰囲気を感じる。
「これはこれは礼儀正しくどうも。私の名前は橋本 雫、この施設の管理人をしている物だ君は?」
「自分の名前は黒瀬 彩人です」
「よろしくね黒瀬君」
適当に自己紹介をし、本題を始める。
「突然ですみませんが、いったいここはどこなんですか?目覚めたらここにいて、何がなんだか....」
「...うーん、その質問の解の前に、君はこの世界の事を何処まで知っているかい?」
「この世界?場所ではないんですか?」
「いいやこの"世界"だ、その様子だと全然知らなそうだね。良いよ、これから教えてあげる。」
すると途端に橋本の後ろにある、巨大なモニターが点滅ししばらくすると砂嵐が流れ始めた。
「あぁ!そうそう、ずっと気になってたんだけどさ、その君の手に持ってるその手首、貸してくれない?」
「手首?ああ、これの事ですか?」
そういってあの部屋で拾った手首を渡す。
「そうそうそれ、ありがとね!」
そういいながら橋本はその手首を自身の欠損した腕の、手があったであろう場所に押し当てた。
すると、突然その手首がもぞもぞと動き始め、まるでスライムがくっつくかの様に橋本の腕にくっついた。
「あー!!やっぱり私の手だったか。」
そういいながら笑う橋本見て、俺は驚愕で体が固まった。
「ん?あーごめん、君はこの世界の事、私の事についてまだ知らなかったね。ごめんねぇ!、驚いちゃったよね~!」
俺は何も言葉を発せなかった。
すると橋本の後ろにあるモニターの砂嵐が終わり、ある男が写った。
「予言しよう、2125年この世界は滅亡する!」
モニターの人物が開口一番そういった。
「君達がこれを見ている頃、私は死んでいるし、世界も滅亡してしまっているだろう。」
「だか、奇妙な世界に迷い込んでしまった君達は右も左も分からない様な子供、足をブルブル震わせている小鹿に様になっているだろう!だから私はここに映像を残す!君達が迷子の小鹿から人参を吊り下げられ、そこに一心不乱に走る子豚になれる様に!!」
「ふぅ......自己紹介がまだだった、私は宮沢武人、世界の滅亡を再起不能の滅亡から再起可能な滅亡にするための集団、死霊術士に所属する研究員の一人だ!」