29.ミナとジャミ
レイたちは歩いてライバ領内を北へ向かっていた。
ライバの町に少しでも早く行きたいが、レシーアとミナの体力が回復していない。
相変わらず食材と金目の物を探しながらの旅だ。
「この領って村も町も全然ないですね。」
休憩の途中、昼飯を食べながらトムが不思議がる。
「ライバさん独自の考えでね。ライバの町に行ったら驚くと思うよ。」
ミナがいたずらっぽく笑いながら答える。
2人ともやつれた感じは無くなり、ご飯をたくさん食べる。
レシーアはレイに習って無詠唱魔法の練習を始めていた。
「話変わるけどさ。」
突然ミナが話題を変える。
「何だ。」
「あのす巻きの少年何なの?」
ミナが指さす先には、す巻きにされたジャミが転がっていた。
仕方なくレイの奴隷にしたが、事あるごとに逃亡を図るため、とうとう手足の自由を奪われたのだ。
「気にするな。単なるアホだ。」
辛辣にレイが答える。
「アホって、もう。」
「盗賊の頭だった男だ。訳あって奴隷にしてるが、逃げようとするからな。」
「盗賊だったんだ。よく死罪にならなかったね。」
「保護された彼女たちのおかげかな。」
す巻きで食事がとれないジャミの口元に、食べ物を運ぶ女をレイは指さす。
「根っからの悪人じゃないんじゃない?」
「どうかな。職業盗賊だぞ。」
ふーんと言って食事に戻ったミナだったが、食べ終わった後レイにある提案をした。
「あの子、あたしが教育して良い?」
トムが驚いてレイの代わりに答える。
「良いんですか。盗賊ですよ。」
「盗賊って索敵能力あるからね。斥候にもなれるの。」
「でも…。」
躊躇するトムに代わり、今度はレイが答えた。
「良いぞ。逃げないようにするなら。」
「大丈夫、そこはあたしに任せて。」
黒い布をまとったミナは、転がっていたジャミに近づいた。
小声でトムがレイに尋ねた。
「良いんですか。任せちゃって。」
「同じ職業同士の方が良いだろ。」
「同じ職業?ミナさんも盗賊なんですか。」
「うん。スキルでコッソリ見た。」
「大丈夫ですか。2人で逃げるんじゃ。」
「大丈夫。彼女は『白い』からな。」
「白い?」
レイの言っていることが分からない。
「トム、覚えてるか。タックとフクンの爺ちゃんのこと。」
「もちろん。不思議な体験でしたね。」
「その時、爺ちゃんが俺たちのことを『白い』って言ったの覚えてるか。」
「そうでしたっけ。」
「ああ。あれな、人の中身のこと言ってるって分かってきたんだ。」
「中身。」
「良い奴はなんというか、白いオーラが出てるんだ。」
「じゃ、悪い奴は。」
「黒く見える。」
「なるほど。ミナさんは白いオーラだから良い人なんですね。」
「そう。」
「ジャミは?」
「ジャミは…灰色なんだ。」
「灰色。」
「黒だったら奴隷にはしなかったんだがな。」
「灰色ってどうゆうことなんですかね。」
「分からないな。これから白くなるのか、黒くなるのか。変わらないのか。」
2人はミナと、す巻きのまま話しているジャミの方を見た。
ミナとジャミはずっと小声で話していた。




