28.副騎士団長ハリナ
「くそがっ。」
シュミム王国の騎士団長は、誰もいない部屋で1人悪態をついていた。
酒の入ったグラスを誰かに投げつけたいが、部屋には誰もいない。
騎士団から抜ける者が多く、その欠員対策に弟が斡旋した冒険者を大量に雇い入れた。
城内の雰囲気が悪くなり、大臣や王族から会うたびに小言を言われる始末だ。
騎士団長の評価が低くなる一方、副騎士団長ハリナの評価はうなぎ登りだった。
ハリナはローミ大領主の遠縁で、長い金髪の美人である。部下思いで高潔と謳われる人物だった。
部下からはもちろん慕われており、ハリナの部下はオーク襲来以降も誰1人辞めていない。
騎士団長はハリナをどうにかして蹴落としたいと、常日頃思っていた。
「入るぞ。」
大臣がノックもせず、唐突に部屋に入ってきた。
「大臣、何用でしょう。」
「何やら酒臭いが。まあいい。仕事だ。」
ぶっきらぼうに大臣が言う。
「あの連中を連れてライバ領に行ってほしい。オーガの村が出来てるかもしれんとのことだ。」
「はあ。ライバのおっさんなら何とかするでしょ。」
「それがだ。懇意にしていたAランクの連中がいなくなってな。珍しく要請が来た。」
「無視すればいいでしょ、そんなもん。」
「そうもいかん。ライバが崩れれば、国自体が危なくなる。」
討伐隊を結成して至急行ってほしいという。
「うちにそんな人員いますかね。辞めてばっかじゃないですか。」
「弟紹介の冒険者崩れがいるだろう。」
「あいつらハイオークがやっとですよ。」
話を続ける騎士団長の頭に、ふと悪魔の考えがよぎった。悪い笑みを浮かべながら大臣に提案する。
「ハリナ副騎士団長はどうでしょう。人員も揃っていることですし。」
「力不足ではないか。言うほど人数もいないだろう。」
「だからこそ『あいつら』に帯同させて、経験を積ませるんですよ。」
大臣は「うーん。」と唸りながらしばらく考えていたが、面倒くさくなったのか、「任せる。」とだけ言い、部屋を出て行った。
騎士団長は近くを歩いていた兵士を呼びつけ、ハリナに部屋に来るように言づける。
しばらくして、
「何用ですか。」
長い金髪をなびかせながら、ハリナが入ってきた。
「仕事だ。ライバ領に奴らと行ってくれ。」
「奴ら。」
「例の連中だ。オーガが出たらしい。奴らの成長には必要だろう。」
「騎士団長は。」
「ロックウッドだったか。その残党の目撃情報がドイン領であった。ドインに捕まったメンバーを連れ戻したいって算段だろう。魔族の活動も活発だ。そちらに赴いて残党を捕縛する。期待してるぞ。」
「はっ。」
ハリナが踵を返して部屋から出ていった後、騎士団長は空になったグラスに酒を注いだ。
「嘘に決まってるだろ。バカめ。」
誰もいない部屋で1人グラスを高く掲げながら、騎士団長はニヤニヤと笑っていた。




