27.検問
レイが黒い布と包帯を持ってきた。包帯でレシーアとミナの顔半分と体のあちこちを巻き、黒い布を2人にかぶせる。
「すぐ出発する。今日中にライバ領に入りたい。」
「そうですね。ここの領よりかは安全そうです。」
トムも同じ考えのようだ。
マールやスミスの待つ休憩地に戻り、皆に遭難者を保護したと伝えた。
レイは2人を故郷のライバ領まで送り届けるため、直ぐに出発すると言い、レシーアとミナを馬車に乗せた。その他マールや奴隷にしたばかりの者たちを何台かの馬車に分けて乗せていく。
「大分狭いね。」
「すいません、マールさん。今日中にライバ領に入りたいんで。」
マールに謝りながらレイたちは走り出した。ライバ領に入ってから野営がしたい。
しばらく走ると領境が見えてきた。各領境には、検問所が置かれている。
アウド領の衛兵にレイはニコニコしながら近づき、愛想良く挨拶する。
「大人数だな。何しに行く。」
あまりの大人数に警戒しながら衛兵は尋ねた。
「奴隷仕入れまして。アウド領経由でローミの町に売りに行くところです。見ます?」
レイは側にいたチルの首元を乱暴につかみ、奴隷紋を見せた。
「馬車の中も奴隷です。見てください。」
幌を開け、中を見せた。ツンとした刺激臭がし、衛兵は思わず顔をしかめる。中にはギッチリと首元に奴隷紋のある人々が俯いて座っていた。
一番前には意地悪そうな顔をした奴隷紋のない老婆が座っている。
「ちょっと時間かかりますが、全員分の奴隷紋確認してください。」
「いや、いい。奴隷は所詮『もの』だからな。」
レイとトム、マール、スミス4人分の通行料を支払い、150人を超える集団が検問所を通り過ぎていく。衛兵から見えない位置まで歩いていくと、そこから急に走り出した。
出来る限りアウド領から離れようと北に向かって走る。
夕暮れ時、空き地にたどり着くとレイは深いため息をついた。
「ここまで来れば問題ないか。チルすまなかった。」
「いいですよ。珍しいですね、なんかあったんすか。」
チルの問いに答えずに、レイは野営地に建物を作り始めた。
ほぼ半日移動を続けたからか、奴隷たちにも疲れの様子が見える。
「皆、お疲れ様。今日はゆっくり休もう。明日は遅くに出発する。」
奴隷たちに伝え、レイはレシーアとミナに風呂に入るように言った。
「お風呂なんて久しぶりね。」
「ゆっくり入ろう。」
2人は着替えを持って風呂場へと入っていった。
「やれやれ。」
マールがレイとトムの所にやってきた。
「今日はちと疲れたね。」
「マールさんすいません。早くライバ領に入りたかったんで。」
「いいよ。あの2人が助かったんだ。衛兵に見つからなくて良かった。」
「本当に。」
イチかバチかの賭けだった。奴隷紋のない2人が見つからないように、馬車の中に奴隷たちをギュウギュウに詰め込んで検問所を抜けたのだ。
緊張から解放されて疲れが一気に押し寄せたのか、トムは座り込んでいる。
「あたしも風呂入ろうかね。」
マールが風呂の方に歩いていくのを見届け、レイもトムの隣に座り込んだ。
「嘘つくの大変だった。」
「奴隷商ですか、我々。」
「それくらいしか理由思いつかなかった。」
「まあ、いいです。切り抜けられたんだから。風呂入って飯食って寝ましょうや。」
レイとトムがへたり込む中、シュミム王都では新たな問題が起こっていた。




