25.解散
翌朝、レイはチルに叩き起こされた。
「何だよ。もう。」
「大変ですよ!起きてください!」
「起きてるよ。何だ、魔物か。」
レイは素早く鎧を身に着ける。
「違います。外見てください。」
チルに促され外を見ると、日がようやく昇った空の下、村長と村人が建物の前で正座していた。どうやら村人全員いるらしい。
慌ててチルと一緒に外に出ると、一番前に座っていた村長が話し出した。
「レイ殿。すまなんだ。話を聞いてくだされ。」
「…はい。」
状況がよく分からないまま、レイは村長の前に正座した。どうしたら良いのか分からないチルも、同じように隣で正座している。
「お早うございます。」
「…お早うございます。」
「実はお願いがあって。わしら全員貴殿の奴隷にしてほしい。」
「へ。」
「見ての通り、食う物にも困ってる状況でして。このままでは全員餓死してしまいます。」
「はあ。」
お互い見つめあったまましばし沈黙する。
どうしたら良いのやらとレイが困っていると、
「いいんじゃないですか。」
と後ろから声がした。
「トム。」
「レイさん。もう決めてるでしょ。困ってる人ほっとけないから。」
トムもレイの隣にあぐらをかいて座った。
「で奴隷にするのは良いとして。」
「おい。」
「どうしてレイの奴隷にと思ったんですか。」
トムはレイに構わず話を進めた。
聞けばアウド領は税の取り立てが厳しく、出来た作物の7割を取っていくらしい。
「7割も。木とか納められないんですか。」
トムは驚いて、キッコーリ村のように木を納めればと提案する。
「それはアウド領近くの村の担当でして。隣の国に運搬しやすいからと。」
「なるほど。」
国境の砦から離れたこの村が木を運搬していくのは難しいらしい。
「7割は異常ですな。」
「他の領よりも高いと聞いとります。」
「ほう。」
村長は話を続けた。村を捨てると村人全員奴隷落ちしてしまう。村長は責任を取らされ犯罪奴隷となるそうだ。村人たちがギリギリの生活をする中、レイたちがやってきた。
レイの奴隷は全員筋骨隆々、生き生きとしていて装備も立派だ。
食事も3食十分に用意されており、村人がレイの奴隷に話を聞くと、旅で各地を転々とするが特に不満は無いという。このまま餓死か奴隷落ちになるなら、と昨夜村人全員で話し合って決めたそうだ。
「で、全員レイさんの奴隷になるとして。」
「おい。」
トム曰く、レイの奴隷になることは決定のようだ。
「戦える人いますか。」
「何人かは。オークくらいなら何とか。」
「十分です。装備は順番に用意しますね。」
「かたじけない。」
「お腹空いてるでしょう。朝飯どうですか。」
「いいんですか。」
「用意します。」
「やったーーー。」
前の方に正座していた男の子が嬉しそうに叫びながら立ち上がる。
それを合図に村人たちがそろそろと立ち上がり、チルに先導されて建物の中に入っていった。
「どうすんだ。この人数。」
レイは情けない顔をしながらトムにすがる。
「わっはー。でもレイさん、決めてたでしょ。」
「迷ってたよ。」
「でも最後には決めるんですよ。今までそうでしたもん。」
「どうすんだ。旅大変なるぞ。」
「どこかに定住して町でも作りますか。」
「お前町長な。」
「噓でしょ。」
レイとトムは、どつきあいながら建物に入っていった。
マールが呆れながら奴隷紋を村人の首に描いている。
「もう奴隷紋用の染料無いからね。次の町まで奴隷増やさないようにね。」
マールからクギを差されてレイとトムは苦笑した。
この日レイの奴隷が150人を超えた。




