23.貧しい村
翌日朝から、レイたちはさらに北へと向かう。
目指すはライバ領だ。
そこに勇者たちがいないか探ろうと思っている。
ライバ領とアウド領の中間に小さな村があり、日暮れ前その少し離れたところで野営の準備を始めた。
村人を驚かせないようにと、レイとトムは村長の元へと向かう。
少し大きな小屋に住む村長に滞在の許可を貰い野営地に戻っていく途中、トムがレイに耳打ちした。
「なんか、やせ細った人多くありませんか?」
「そうだな。あと男がいない。」
村人がレイたちを物珍しそうに見ているが、どの村人もやせ細り弱々しい。
村長も例外なくやせ細っていた。
野営地に戻ると、肉の焼けるいい匂いが立ち込めていた。
「そろそろご飯ですかな。」
「今日はユジュカウか。美味しそうだ。」
タックとフクンにせがまれて、今日は焼いたユジュカウが晩御飯として出るらしい。
レイとトムも食事にありつこうと建物の中に入ろうとしたところ、1人の子供が近くでよだれを垂らしながらこちらを見ていることに気が付いた。
「ん?」
トムが声をかける。
「この村の子?」
「うん。」
「お腹空いたの?」
「うん。」
「肉食べる?」
「うん!」
最後はどこから声を出しているのかと思うほどの大きな声で子供は返事をした。
「お母さんとかいるの?」
「あそこの家。」
子供が近くにある粗末な小屋を指さす。
「許可貰った方がいいですな。」
「そうだな。なんだったら食事に誘うか。」
「いいですね。行きましょう。」
レイとトムは連れ立って小屋へと向かった。
「すいません。」
レイが小屋の戸を叩く。
「…はい。」
中からか細い声が聞こえ、戸が開いた。
出てきたのはやせ細った女で、奥の部屋を見るとガリガリの子供が3人いた。
「この子と一緒に晩御飯食べてもいいですか。」
「うちはよそ様に出す食事はありませんけど。」
女は警戒しているようだ。食料を奪われると思ったらしい。
「いえ。食事はこちらで用意しますんで。」
「お肉食べさせてくれるって!」
レイの後ろにくっついていた子供が嬉しそうに言った。
「お肉?」
奥の部屋でやり取りを黙って聞いていた子供たちが、ワラワラと近寄ってくる。
「良かったら皆で食べる?」
「うん!」
即答だ。母親であろう女は狼狽している。
「良かったらお母さんも一緒にどうぞ。」
トムに誘われ迷っていたが子供たちに背中を押され、母親と子供たちはレイの作った建物へと歩いていく。
辺りに肉の焼けるいい匂いが立ち込めていた。
その匂いに誘われて、村人が1人また1人と近づいてくる。
「…全員お腹空いているようですな。」
「…もう村長に言って全員誘うか。」
レイとトムは村長の家に行き、野宿で迷惑をかけるので、村人全員にお詫びとして食事をおごらせてくれと頼んだ。
村長は断ったが、信用を得るためレイとトムがCランクの冒険許可証を見せると、渋々許可が下りた。
村長と共に野営地である建物へと戻る。
聞くとこの村には30人ほどいるらしい。
男たちは薬草採取のため、夕暮れまで近くの森にいるそうだ。
村長とレイが建物に入ろうとすると、近くの茂みからガサガサと音がした。
レイとトムは武器に手をかけたが、中から出てきたのはやせ細った男たちだ。
6人の男たちがしおれた薬草を手に持ち、立ち尽くしている。
どうやらこの村の男たちのようで、村長から食事に来るように言われ、レイたちは連れ立って建物の中に入っていった。
もうすぐ日が落ちようとしていた。




