18.国境領主タリカ
シュミム王国とアッカディー王国の国境には、アッカディー王国が建てた砦がある。
防衛の意味はもちろんあるが、シュミム王国からの好ましくない来客を追い返す役割もある。
その砦を守る国境領主ことタリカは、ある日の夕方、望遠鏡でアウドの町を眺めていた。
「暇だな。何か面白いこと無いのかい。」
「覗きは悪趣味ですよ、領主。」
側にいた部下の男がタリカを諫める。
アッカディー国王の異母弟として国王側近から疎ましがられ、国境に押し込められたタリカは、何の変化も無い毎日に飽き飽きしていた。
「ん?」
覗いていた先のアウドの町に突然100人を超える集団が押し寄せてきた。
「とうとう暴動が起こったか。」
あの守銭奴のババアならいつか起こるだろうと思っていたが、と引き続き覗いていたが、火の手が上がる気配も無く、怒号や剣のぶつかり合う音が聞こえてくることも無い。
「んん?」
集団から2人の男が衛兵に近づき、何やら話している。
「ああん。金で揉めてるな。10万ゴールドは高いっしょ。」
「だから覗きは悪趣味ですって。仕事してくださいよ。書類溜まってますよ。」
部下が書類の束をタリカの頭にグイグイ押し付けるが、タリカは意に介さない。
2人の男は別の男に引っ張られ、集団に戻っていった。
さらに別の男2人が入れ違いに集団から離れ、町の中へと入っていく。
「2人だけ宿に泊まるってか。他は野宿か。つらいねえ。」
他人事のように吞気につぶやくタリカの目の前で、突然ソレは起こった。
集団に戻された男のうちの1人が少し離れたところに歩いていくと、一気に巨大な建物が男のそばの地面からせり上がってくる。
「は?」
一瞬見間違いかと思い、タリカは望遠鏡から目を離した。
もう1回望遠鏡を覗くが、巨大な建物は確かにそこに存在した。
「おおい。でっかい建物が1秒で出来たんだが。」
「アホなこと言ってないで仕事してくださいよ。し・ご・と!」
「いや、見てみろって。ほんとだから。」
「ふう…。」
ため息をつきながら部下の男が望遠鏡を覗く。
「うわっ。何ですあれ。あんなんありました?」
「無いよ。何だよあれ。お前見て来いよ。」
「嫌ですよ。前に祭り覗きに行ってアウドさんから怒られたじゃないですか。」
「あいつら来るかなあ。」
「来るでしょ。あそこで野宿してるんだから。」
「誰だよ。あんなん作れる奴。来たら俺に言えよ。色々聞きたい。」
「その前に仕事してくださいよ。書類!読む!サイン!やらないとあの人たち来ても教えませんよ。」
「いじわる!嫌い!」
「今日中にやれば会わせてあげますから。ほら。」
書類の束をグイグイ押し付けられ、タリカは椅子に座りなおして渋々ペンを握った。
一方噂の的になっていたレイたちと、買い物から戻ってきたジョナを含むセイクルズのメンバーは、夜更けまで酒を酌み交わしていた。




