16.キミイとジョナ
褒賞金をたっぷりもらったレイたち一行は、さらに東を目指していた。
立ち寄った町々で勇者3人の行方を探るが、全く情報が無い。
「もう死んだのか。いや。そんな気配は無い。」
レイは独り言を呟く。死んでいれば神勅が下るはずだし、自分にも分かるような気がする。
町に寄らずに他の国に逃げた可能性もあるため、国境の町を目指して進んでいく。
日が経つにつれて気落ちしていくレイを見て、トムもどうしたら良いのか分からなかった。
だが勇者の情報が得られないこと以外、旅は順調だった。再び盗賊に襲われることも無く、褒賞金に加えて途中途中で金目の素材を見つけているためか、レイたちの懐具合も良い。
奴隷たちの装備や服も、どこの冒険者かと見紛うほど立派だ。
魔物討伐もしているためか、戦う奴隷たちのレベルも順調に上がっている。
食料も十分に足りており、子供から老人まで全員筋骨隆々だ。
盗賊討伐の際保護した女たちは、マッチョになっていく自分の体を見て何やら嘆いている。
さらにはトムの授業で、読み書き計算が出来る者が増えていった。
現在はポッタとマールで教えていて、鍛冶をしたい者はスミスに、武器で戦いたい者はトムに、魔法を使いたい者はレイにそれぞれ夕方頃教わっている。
ある日レイがチルたち奴隷に魔法を教えていたところ、後ろの方にセイクルズの僧侶キミイと魔法使いのジョナが参加していることに気が付いた。
レイの言うことを熱心に紙に書き写していて、魔法の練習にも参加している。
魔法の授業が終わった後、レイは2人に近づいて尋ねた。
「ばれたか。」
ジョナはバツが悪そうに笑う。
「どうしたんですか。」
「だってよ。俺たちも無詠唱で魔法使いたいから。」
「そう。魔法も色んな属性の使いたいし。」
「ジョナさんとキミイさんも難しいですか。」
「普通は無理よ。出来る人見たの初めて。」
「俺もだ。頼む。国境で別れるまで、俺たちにも教えてくれ。」
「はい。うん。嬉しいです。お2人にそう言ってもらえると。」
それから、ジョナとキミイはレイの授業を受けながら、時々夜にレイと3人でタックとフクンに教えてもらうようになった。
威力のある無詠唱魔法を使うことは中々出来ないが、ジョナもキミイも嬉しそうだ。
レイも勇者のことを考えない時を楽しんでいる。
120人を超える大所帯になったが、全員鍛えられているせいか、保護したリザードホーズのおかげか、旅の始まりよりも移動速度が断然速くなった。だんだんとセイクルズと別れる国境の町が近づいていた。




