14.奴隷落ち
翌朝セインに呼び出されたレイは、衛兵の詰所へと赴く。
途中の広場では、既に盗賊たちがさらし首にされており、遺族であろう町の人たちが石を投げている。
「残酷だな。」
「それだけのことやったんだもん。僕も慣れないけど。」
中々の光景を後にして、2人は衛兵長の元へ行く。
「褒賞金についてはあと3日ほどで用意できるぞ。早馬で国と領都に報告している最中だ。たっぷり出るだろうよ。」
衛兵長がニヤリ笑いながら言う。
「良いね。旅の資金になる。」
セインはご機嫌だ。
「討伐隊を出さなくて良くなったからな。被害もでかかったし。被害者の遺品も一部回収出来た。」
討伐隊が交戦していたら犠牲が出ていたかもしれないという。ジャミに代わる新しい頭は、タックとフクンに拘束された3人のうちの1人で、元Bランク冒険者だった。
「堕ちた奴だな。自分も気を付けないと。」
現Bランク冒険者のセインが気を引き締める。
「で、ちょっとセインにも相談したんだが。」
衛兵長が本題に入るようだ。
「保護した女たちの引き取り手が無くてな。どうしたもんかと。」
聞けば、元々娼婦にするために王都に運んでいたらしい。引き取り先である娼館に保護したことを話したが、商品にならないからと受け取りを拒否された。奴隷商人にも話をしたが、無料でなら引き取ると言われたそうだ。
「そんなことあるんですか。」
「おう。盗賊の慰み者になってたからな。価値が無いと判断されたんだろう。」
聞くほどに残酷な世界だとレイは思った。簡単に人が死ぬ。直ぐに無価値と判断される。
今度はセインが話し始めた。
「それでな。レイの奴隷にと思ったんだ。」
「俺の。」
「そうだ。かなり大所帯になるが。」
レイは考え込んだ。ただでさえ100人ほどいる上に新たに加わると、本来の目的である勇者探しに支障が出るかもしれない。だが、しかし。
血だらけの女たちの姿が思い出される。自分が引き取りを拒否すれば、今後どうなるか分からない。自分はそれを許せるのか。
しばらく考えを巡らせた後、レイはホッとため息をついた。
「分かった。」
「良いのか。助かる。直ぐにでも手続きしよう。」
衛兵長は傍らにいた兵に、女たちを連れてくるよう伝えた。
レイとセイン、衛兵長の3人が奴隷紋作成の準備を待っていると、1人の女がおずおずと近づいてきた。
「あの。ありがとうございます。」
女は丁寧に頭を下げる。
「別に良いよ。」
「あの、それで。彼はどうなるのでしょう。」
彼とはジャミのことだ。
レイに代わって衛兵長が答える。
「犯罪奴隷だ。だが戦えまい。好事家に買われるのがせいぜいだろう。」
「そんな。」
「文句あるのか。」
「いえ。」
女は引き下がったが俯いていた。他の女も思うところがあるのだろう、ちらちらとレイを見ている。
レイは先ほどよりもかなり深いため息をついた。
「いいよ。彼も奴隷にして。」
「良いのか。」
「だが、奴隷紋の他に首輪も付ける。盗賊に逃げられたら困るから。」
「重ね重ね礼を言う。首輪もこちらで用意しよう。」
衛兵長はさらに奴隷用の首輪を持ってくるように言い、レイの方を向き直った。
「褒賞金の額は変わらん。すまんな、面倒事ばかり押し付けて。」
「いえ。」
「あっあとCランクに上げるから。後でDランク2人の許可証を見せてくれ。」
「はい。後でもう1人も連れてきます。」
この日からレイたちの一団は、120人をはるかに超える大所帯となった。




