8.武器と防具と金欠と
門と城の丁度中間地点にある広場に屋台が立ち並び、そこで肉と野菜の焼き串を買って腹を満たした後、2人はスミスの所に向かった。
店番をしている少年に声をかけ、しばらくするとスミスが額の汗を拭いながら奥から出てきた。
「あともうちょいで出来るぞ。見てみるか。」
「はい。」
2人は店の奥へと入っていく。
作業部屋の奥に隠し扉があり、そこを開けると小部屋があった。
そこには2人の体格に合わせて作られた皮鎧と、剣とハルバードが置いてあった。
「ちょっと着けて武器振ってみろ。俺がどんな動きをするか言うぞ。」
「はい。」
2人は素直に防具を身に着け、武器を持つ。
言われた通りの動きをしていると、スミスは紙に何やら書き込んでいる。
時々2人の動きを止めながら、剣の持ち方や鎧の変形具合を見ている。
「うん。ちょっと手直しが必要だが、ほとんど出来たな。」
満足そうにスミスは言い、ペンを置いた。
そして少し間をおいてから、
「すげえ言いにくいんだが。金の話してなかった。」
とポリポリ頭を掻いている。
「そういや、そうっすね。」
「そうだな。」
テンションが上がって肝心の料金の話をしていなかった3人が見つめあう。
「15万G、に、なるんだが。」
「なっ!」
「マジか。」
2人は3か月分の生活費に相当する料金の高さに驚いた。
トムは料金が妥当かどうか考えを巡らす。
物の値段を知るのは自分しかいないからだ。
ミスリルの修理が約3万G、ドラゴン革の防具の修理となればそれ以上、金額は妥当かなと考えていた。
「自分の経験上、ぼったくりではないっすね。」
「そうか。」
「当たり前だろ。こっちの信用に関わるわい。」
タマゴ頭のてっぺんを赤くしながらスミスは言った。
2人は15万Gを払い、のこりの金の少なさに不安を抱いていた。
あと1週間トモリーツ亭には泊まれるが、生活費は残り1万Gを切った。
来週から泊まるところの費用も今のままだと払えない。
装備はまだ完成していない。
2人はこれからどうするかと顔を見合わせていたが、様子を見ていたスミスが声をかけた。
「ちょっとこっちに来てみろ。」
作業部屋に戻ると隅に武器と防具が2組置いてあった。どことなく先ほど見たレッドドラゴン製の皮鎧とミスリル合金製の武器に似ている。
「これ貸すから、魔物狩ってこい。」
スミスが腕組みしながら言った。
「ありがたいんだが、さっきのやつに似てるな。」
「そりゃそうだ。新人冒険者がドラゴンの皮鎧なんか着た日にゃ、他の冒険者に狩られんぞ。ドラゴンとかミスリルとか分かんねえよう、見た目をオークの皮鎧と鉄剣に似せてんのさ。」
「じゃあ見分けがつかなくなるのか。」
「そうでもないさ。見てみろ。」
スミスがレッドドラゴン製の皮鎧の裏側を見せると、小さくハンマースミスの屋号のマークとレイの名前が彫られていた。
「これでお前らのもんって見分けがつくさ。あとな、やっぱり質感が違う。触って確かめてみろ。」
スミスに促されるままそれぞれの武器と防具を触る。
防具はレッドドラゴン製の方が滑らかで、薄いながらも強度が感じられ、しなやかさがある。また、武器はやはり軽さと刃の鋭さが全く違っていた。
「じゃあ、こっちの方を借りてくぞ。当面の生活費を稼ぐ。」
レイがそう言って、借り物の武器を手に取る。
「ああ。2日後にまた来てくれ。完成品を渡す。」
スミスはニカっと笑いながら、腰に差していたハンマーを軽く叩いた。