8.急襲
レイたち一行は、いくつかの町を経由して東へと進んでいく。
5日目の夕食時に、レイがセインに尋ねた。
「町ばっかりですね。村が無い。」
「この街道は盗賊の類が多くてな。防壁で人の住むところを囲む必要があるんだ。」
「魔物より盗賊ですか。」
「ああ。アッカディー国境までの街道は商人が多い。狙われやすいんだ。」
「そうなんですよ。だから私も警戒してましてね。」
ポッタが話に加わる。
ポッタ曰く、シュミム王国の王都へ行く際には、必ずCランク以上の冒険者を2パーティー以上雇う必要があるという。
「金かかりません?」
「かかりますよ。だから他の商人と合同で雇って大人数で行くことが多いです。」
「うちも大人数だから襲われないかな。」
「いや。老人と子供が多い。金持ってると思われたら襲われるぞ。特に今は月が出てない。盗賊が出るとしたら今夜かもしれんな。」
セインが諫める。
レイとトムは気が緩んでいたと少し反省し、風呂に入った後交代で見張りをするまでの間眠りについた。
皆が深い眠りについたころ、
「レイ!トム!」
鋭く緊張した声を聞き、レイとトムは起きた。
声の主はジョナだ。目を凝らすとクルンが外を見て警戒している。
セインとキミイは既に起きており、戦闘の準備をしていた。
レイとトムも素早く準備をする。警戒しながらスミスも起こし、7人で外の様子を伺う。
月も出ていない暗闇ではっきりとは分からないが、何かが動いているようで森の中の草が擦れる音がする。
「何人くらいか。」
小声でセインがクルンに聞く。
クルンは索敵も出来る有能な剣士だ。
「ざっと20人くらいね。骨折れそう。」
全員静かに武器を手に持つ。
すると突然森の中から何かが投げ込まれた。
レイが土魔法で作った建物の中にあっという間に煙が充満する。
全員目が痛くて開けられない。涙を流しながら咳込んでいる。
「レイ!」
セインが叫んだ。
レイは自分が何をするべきかを瞬時に判断し、「ウィンド!」と風魔法を発動する。
風魔法で充満した煙を押し返し、森の中から咳込む声が聞こえる。
次に「ライト!」と叫び、光魔法を発動させた。
建物の周囲を光が照らす。
光に驚いたのか森の中から音がして、人の気配が急に消えた。
「逃げたようね。」
クルンが少しほっとした表情で言った。
「追うか?」
「いや。日が昇ってからで良い。とりあえず外に出て周りを見てみる。」
セインとレイが建物から出て、周辺をくまなく調べる。
特に異常は無かったため、中に戻った。
眠っていたマールや奴隷たちも何事かと起きてしまっていた。
皆には何も問題無いから休むように言い、レイとトムも眠れそうになかったが横になって目を瞑った。次の日、オーク戦以上の凄惨な光景を見ることになるとは知らずに。




