7.トムの決心
トムは大通りを歩きながら、レイに対してあることを言おうと決めていた。
大柄だが小心者で心優しいこの男は、レイに対して遠慮がちだった。
敬語で話すことも中々直らない。
それを理由に兵士時代は散々バカにされていた。
だがしかし!今日こそは!
トムはレイの顔よりも大きい手を握りしめ、力を込めて言った。
「レイ!」
レイは少し驚きながら立ち止まり、トムを見た。
「今日は凄い汚れてます。浴場に!行きましょう!」
彼は大の風呂好きだった。
兵士の時にお前が入ると湯があふれると散々文句を言われながらも、肩まで湯につかるのが大好きだった。
「浴場か。」
「そうです。ギルドのすぐ近くにあります。こんなに汚れてますし。」
「宿屋じゃダメなのか。」
「ダメです!行きましょう!」
トモリーツ亭ではトイレは共用で、風呂は桶に湯を張ったものだ。
客は桶の中に入りながら、布で体をこする。トムにとって風呂とは言えないものだった。
レイは考えながら、
「それは男女一緒に入るのか?」
「へっ。いえ。別々です。」
「俺は男風呂に入るのか。」
「当たり前でしょう。変態ですか。」
「裸か。」
「当たり前でしょう。ちゃんと洗えませんよ。大小なんて皆気にしませんから。」
トムはレイの体が華奢で、男の象徴が小さいことを気にしているのかと考えていた。
レイは考え込んでいたが、トムのあまりに真剣な表情に説得することを諦めたのか、
「じゃ。行こうか。」
と2人連れ立って浴場へと向かった。
2人で浴場に入り200Gを払うと、男風呂へと向かった。
何人か年老いた先客がいたが、昼ということもあり空いていた。
レイは前を隠している布を取るか迷っていたが、空いていることもあり、隅の方で隠れるように体を洗い始めた。
丁寧に頭と顔と体を洗い、2人は湯船に身を沈めた。
とんでもない量の湯が溢れ、何人かの客が驚いて湯船から出て行ったが、特に大きな騒ぎになることもなく、静かな時間が流れていく。
「ぐぉあ~。気持ちいいっすな。」
トムは足を存分に伸ばし、肩まで湯に浸かっている。
「そうだな。疲れが取れる。」
「そうです。そうです。これから毎日入りに来ましょう。」
「まあ、稼ぎによるかな。」
「出たら屋台で飯食いましょう。旨い屋台知ってますんで。」
「分かった。その後スミスの所に行こうか。」
「そうっすね。新しい…新しくはないか。綺麗になったもんが楽しみっす。」
2人は体から疲れが流れ出ていくのを感じながら、これからのことについて話し合った。