67.別れの前夜
1週間後。
木こり亭の食堂は、今日の夜は貸し切りだった。
普段は厨房で忙しく働いているノムと2人の子供も、ご馳走を前にして座っている。
レイとトム。タック。フクン。マール。村長。キッコン。スミス。リーツ。リーツの妻トモ。スミスの弟子エラも座っている。
その他、防壁完成前から村に住んでいた者たちも座っていた。
今日はお別れ会だ。明日の朝、レイたちは東に向けて旅立つ。
スミスと相談して、勇者を探すならまず国境の町だろうとアタリを付けたからだ。
普段はシンプルな料理が多いが、今日は手の込んだ料理が並んでいる。
野菜と干し肉を煮込んだトマト風味のスープ。香草と酒につけて焼いた固まり肉、付け合わせの茹でたジャガイモに、バターと蜂蜜をたっぷり塗ったパンだ。
子供達には果実のジュースが配られ、大人たちには上質のブドウ酒が配られる。
村長が立ち上がり、乾杯の音頭を取る。
「じゃ。話長いと冷めるからの。レイたちの旅立ちを祝して。かんぱーい。」
あちらこちらでコップをぶつける音がして、目の前の食事に手を伸ばす。
トムはご馳走に夢中だ。
レイもあまり食に興味は無いと思っていたが、いつもとは違う料理に手が止まらない。
スープは野菜に味が染みていて、いくらでも飲めそうだ。肉は臭みがなく柔らかい。
じゃがいもはホクホクしているし、バターが溶けて蜂蜜と混ざり合い、パンはしっとりとした食感になっている。
そしてブドウ酒。防壁でトムと飲んだものほどではないが、鼻からフルーティーな香りが抜けていく。
皆の腹が満たされた頃、酒を飲みながらの会話が始まった。
食事が終わると手持ち無沙汰で眠くなったのか、子供たちはそれぞれの家へと帰っていく。
レイはノムとリーツの話を聞いていた。
リーツとトモは木こり亭で働き始めたらしい。リーツは食堂と宿が大きくなり、人を雇おうとしていたところだったという。
エラも木こり亭で働いているが、ゆくゆくは自分の店を持ちたいと話した。
魔法袋の話をするとエラは興味を示し、是非見てみたいと言った。
持っていた魔法袋を見せて、そこから魔法陣の本を取り出して見せた。
「レイ。本貸していいよ。」
マールが言う。
レイが魔法陣の本と予備の魔法袋をエラに渡すと、「ありがとう。」と言って大事そうに抱えて自分の部屋に帰っていった。
「あいつは勉強熱心だからな。」
スミスが酒を飲みながら言う。
「連れて行かなくていいのか。」
「あいつが決めたことだからな。生きてりゃいつか会えるさ。」
夜は更けていくが、名残惜しくいつまでも皆で話していた。




