60.廃業
トムとレイはリーツ夫妻に駆け寄り、何があったのかと問いただした。
「あっ。レイさん。トムさん。」
リーツが力なく答える。
「盗られて。修理に使うとかで。」
詳しく聞くと、オークの軍勢がなだれ込んだ際、門だけではなく大通りの建物は多大な被害を受けたらしい。大通りは王都の顔だから早く修復しようと、王命だとして兵士たちが建物から建材を奪い取っていったという。
辺りを見渡すと、あちこちの建物が壊されている。
「もう無理です。宿終わりです。トムさん。レイさん。すみません。」
項垂れながらリーツは謝った。2人とも今は野宿しているという。
レイとトムは2人を抱き起し、周りにあるわずかな荷物をかき集めて4人でハンマースミスへと向かった。
ハンマースミスはトモリーツ亭よりの粗末な建物だからか壊されていなかった。
だが中に入ると、所狭しと並べられていた商品が1つも無い。
ドアが開く音を聞きつけてか、奥からスミスが出てきた。昼から酒臭い。
「おう。お前らか。」
ぶっきらぼうにスミスが言う。何があったのか聞くと、
「衛兵がよう。全部盗っていきやがった。」
王命を携えた衛兵長が盗っていったらしい。オーク襲来後、商人ギルドを通じて国と交渉したが、王命は偽装されており衛兵長が勝手にやったこととして1つも返ってなかった。
その衛兵長も行方不明で、オークとの戦闘で命を落としたとされていた。
「もう商売無理だな。何も出来ねえ。」
スミスは酒を飲みながら言う。
「旅に出るかな。つまんねえし。」
もう店をやる気も無いから売りに出していると言って、寝転がってしまった。
暗い顔をしている3人に向かって、悪いと思いながらも色々聞いていく。
「城に様子見に行ったが、すごい警戒していて。オーク以外に何かあったのか。」
レイがそれとなく聞く。
「騎士団もすごい被害が出たと聞いて。それでですかね。」
トムも続ける。
「知らねえのか。」
スミスが座り直し、レイとトムに言った。
「勇者様どもが行方不明になったんだってよ。3人ともな。だから城の守りが弱くなってるんだ。」




