6.初めての魔物討伐
5日間座学と剣技・体術を学び、6日目の朝に2人は他の新人冒険者と共に、王都へと入る門の前に並んでいた。
これから初めての魔物討伐に出かける。
「最初の獲物はゴブリンだ。Dランクの魔石が取れる。新人冒険者にはうってつけの魔物だ。
だが油断するな。奴らは子供くらいの大きさで非力だが、群れる。そして武器も使う。体格が大人並みのハイゴブリンもいる。これから狩場に向かう。」
2人ずつ並んで門の外へと出ていく。
初めての魔物討伐で顔が強張っている者が大半だが、中には昔倒したことがあると自慢する者もいた。
街道を少し歩いた後巨木が立ち並ぶ森の中に入り、しばらくして教官が皆に合図し、全員が身を屈めた。
「あそこにゴブリンが3匹いる。最初は8人全員で倒してみろ。」
8人で気づかれないようにゴブリンを取り囲み、教官の合図とともに一斉に襲い掛かった。
ゴブリンもギャッギャと鳴きながら棍棒を振り回して応戦していたが、多勢に無勢でほどなくして倒れた。
「じゃあ、ナイフを持て。魔石を抉り出すぞ。」
ナイフをゴブリンの心臓辺りに突き立てて切り開き、中を抉っていく。
流れる血と匂いに吐き気を催す者もいたが、
「我慢しろ。ゴブリンから取れる金目の物は魔石しかねえ。これが出来なきゃ冒険者になれんぞ。」
教官に叱咤され、何とか魔石を取り出した。
「魔物の持ってた武器も壊すか持ち帰れ。他の魔物に利用されたらかなわん。死体も出来れば燃やす。火種はいつも持っとけ。」
ゴブリンが持っていた棍棒を壊し死体を燃やした後、8人と教官は元の場所に戻り次の獲物を待った。
8人で2~3匹を倒す戦いを何回かした後、今度は2人ずつで1匹を倒していくというやり方に変わった。
「ゴブリン退治は、大体2~3人でやる。それ以上だと金にならない。2人で組んで1匹倒してみろ。」
教官に言われ、2匹の場合は4人・3匹の場合は6人と2人ずつで倒していく。
何回かトムと組んで戦いを終えた後、レイは突然目の前が光り輝き、戦いで疲れた体が軽くなるような感覚に陥った。
頭の中に不思議な言葉が流れ込んでくる。
『レベルが2になりました。攻撃力10・防御力10・魔力10・素早さ10上がりました。自分のステータスが確認できるようになりました。ステータスオープンと唱え、ステータスを確認してください。』
「スッスッステータスオープン!」
噛みながらも唱えると、現在のステータスが目の前に表示された。
レイは不思議そうにそれを眺めながら、こっそりとトムに言った。
「なあ。レベルが上がったんだが。」
「あっおめでとうっす。スキルは覚えました?」
言葉遣いを中々変えられず、変な言い方になってしまうトムを尻目に、
「自分のステータスが見れるようになった。」
「すごいっすね。珍しい。」
「そうか。教官に報告した方が良いか?」
「やめた方がいいっす。自分のスキルやステータスは他人に教えないのが普通っす。」
「す」を付けることをやめられないトムの言うことを素直に聞き、レイはひそかにレベルが上がったことを喜んだ。
戦いを何回か繰り返し、全員血だらけになりながら魔石を抉り出しへとへとになった頃、
「じゃあ帰るぞ。8人全員揃っているか。」
「はい。」
「俺が一番後ろに付く。一番前の者は周囲を警戒しながら進め。」
「はい。」
昼前に8人は整列しながら森の中から街道へと戻っていく。
レイは自分のレベルが3になったことをひそかに喜びながら、ギルドへと戻っていった。
ギルドに戻ると教官から、今日で新人教育が終わることを告げられた。
「いいか。お前らは明日から一人前の冒険者だ。受付からEランクの冒険証を貰え。困ったことがあったら言ってくれ。じゃあな。」
短い締めの挨拶を合図に、新人冒険者たちは武器と防具をギルドに返却し、冒険証を手に思い思いの方向に散っていく。
新人たちの背中を見ながら、教官は少し離れたところで酒を飲んでいた4人組に合図を送った。
4人の男たちは立ち上がり、教官と共に右手奥の小部屋へと入っていく。
教官とガラの悪そうな4人組は、傍から見れば異様な組み合わせだが、それを気に留める者は誰もいなかった。