57.カミングアウト
3日ほど作業を続けオークの死体を全て始末した後、門の鎖を新調してまた引き上げた。
借りた装備一式を商人たちに返しつつ、取り出した魔石を戦いに参加した避難者と商人、遺族たちそれぞれに分配していく。オークの皮は、なめしている最中だ。
門の脇には巨大なキングオークの頭があった。
始末しないのかと村長に聞いたら、討伐成功の証として国に献上するという。
「あんな国にか。あんな仕打ちを受けて。」
レイは文句を言うが、
「まあ。仕方ないて。一応国に忠誠があると見せんとな。処世術っちゅうやつよ。」
と村長がなだめた。
夜になり、風呂に入ってさっぱりした後、レイとトムは酒を持って防壁の歩廊へと登って行く。滞在している者は全員昼間の作業に疲れているのか、村はとても静かだ。
家の明かりも数えるほどしか灯っていない。
「終わりましたな。後悔しかありませんが。」
トムが酒をあおりながら言った。
マールとっておきのブドウ酒だ。何年ものだかの高級品でずっと隠されていたが、トムが引っ越しの時に見つけこっそり持ち出してきた。
マールに怒られないかと思いながら、レイも酒をごくりと飲んだ。芳醇な香りが鼻から喉を通っていく。星空を見ながらレイは言った。
「綺麗だな。星。」
「そうですか。いつでも見られますが。」
「前世ではそうではなかったよ。」
「そうなんですか。」
魔法もスキルもレベルも無いレイが生きていた世界は、どのようなところだろうとトムは思った。
静かな時が流れていく。
「召喚される前、前世のことだ。」
レイはおもむろに口を開いた。
「俺は女だった。」
トムの鼻から酒が出た。




