56.弔い
日が完全に昇り、戦闘に加わっていない村人と避難者が村で作業を始める。
戦いが終わったからといって、全てが終わったわけではない。
戦いの中命を落とした者たちの弔いと、オークの死体の始末がある。
そのまま放っておくとゾンビ化する恐れがあるし、オークの死体は凄く臭いからだ。
また、魔石や皮など使えるものを腐る前に取る必要がある。
周囲を警戒しながら遺体の回収と弔いがまず始まった。
村のすぐ外に開けた場所を作り、静かに遺体を横たえる。遺品は体から外し遺族たちに渡した。
家族や友人がすすり泣く中、村長が弔いの言葉を述べ、香油をかけた遺体に火が放たれる。
セイクルズの僧侶キミイが弔いの言葉を紡ぎ続ける。炎と煙は青い空へと吸い込まれていった。
レイはアアナの遺体を直視することは出来なかった。自分の不甲斐なさに腹を立てる。
ずっと立ち上る煙を見ていた。
炎が遺体を焼き尽くした後、残った骨は遺族が細かく砕き、村の外の静かな森の中に埋葬した。小さな石碑を目印に立てる。
遺族が村の中に戻っていった後、動ける冒険者たちで、オークの皮の剥ぎ取りと魔石の取り出しが始まった。
魔法陣を完全に消し、上に残された死体から作業を始める。
凄まじい臭気のため、全員布で鼻と口を覆っている。
村長から止められたが、レイも作業に参加した。
眠たいが眠れないし、気を紛らわせるためにも体を動かしておきたい。
何よりレイの剣は作業にうってつけだった。スパっと切り込みを入れ、手際よく魔石を取り出していく。
昼飯の用意が出来ているとキッコンに呼ばれ、皆で村の中に入っていく。
服から異臭がするため、村の隅で車座になり、パンを食べ、水を飲んだ。
食欲は無かったが、無理やりにでも口に詰め込むしかなかった。
昼を過ぎると作業に参加するものが多くなった。魔力が回復した魔法使いや体力が回復した剣士たちが作業に加わっていく。
「この調子じゃと3日くらいで終わりそうじゃの。」
作業を見回っていた村長が言った。
トムも昼過ぎから参加している。泣きはらしたのか目が真っ赤だ。
レイとトムは黙々と作業していく。
「タックとフクンは婆ちゃんに任せてきました。」
トムがもそりと言った。
タックとフクンは起きた時、レイがそばにいないことを知ってパニックになった。
ぎゃあぎゃあ鳴き叫びながら走り回り、トムが何とか止めたという。
「すまない。」
「いいっすよ。後で撫でてあげてください。」
「うん。」
2人でオークに切れ目を入れていく。
村人たちが手を突っ込んで魔石を取り出した。
魔石と皮は集めて、後で商品を提供した商人と戦闘に参加した者たちに配るという。
魔石と皮を取ったオークの死体は、火魔法で焼き尽くしていった。
死者27名、重傷者103名、その他大勢のケガ人を出し、キッコーリ村はオークの軍勢から村を守り切った。




