54.永久の別れ
レイは薄く目を開けた。キングオークの頭に剣を突き刺したところまでは覚えているが、その後の記憶がない。
頭を傾けて周りを見回すと、トムがへたり込むようにして眠っており、サクソウたちがケガ人に回復魔法をかけて回っていた。
「気が付きましたか。」
サクソウがレイに近づく。
「勝ちましたよ。オークたち全滅です。」
両脇が暖かく重かったため目を向けると、タックとフクンが丸まって眠っていた。
どうやら建物の中のようで、天井に目を向けてレイは呟いた。
「そうか。」
体が少し動かせるようになり、猫たちを起こさないように上体を起こした。
「まだ起きちゃ駄目ですよ。」
サクソウが言うが、外がどうなっているのかが気になり、レイは建物から出た。
長い間眠っていた気がしていたが、実際にはそれほど時間が経っていなかった。
空が少し明るくなっており、もう少しで日が昇るようだ。
少しでも体の動かせる冒険者たちが辺りを警戒している。
「うわあああん。」
突然子供の泣き叫ぶ声が聞こえた。見ると、木こり亭の主人ノムと子供たちがアアナの遺体にすがって泣いていた。
レイは膝をつき、うなだれた。
かける言葉が無かった。もう少し自分が強かったら。もう少し魔法陣を多く描いていたら。もう少し門を強化していたら。
後悔の念しか湧き起らない。あちらこちらからすすり泣く声が聞こえ、ノム達と同じように大切な人の遺体に縋り付いている人たちがいた。
この世界には魔法はあるが、蘇生魔法の類が無い。死んだら終わりだ。
レイはしばらく膝をついていたが、背後から、
「もう起きてていいのか。」
と声をかけられ、振り返るとロックウッドの面々が立っていた。




