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復讐者  作者: 安慶
森に埋もれた国
53/421

53.友のために

 レイはレシーアが離脱した後も、村内に侵入したハイオークに魔法を撃ち続けていた。

キングオークにも魔法を撃ったが、表面の皮に少し傷が付くだけで、ダメージが入っているように見えない。レイも少しずつ疲れており、魔法の威力が下がっていた。

トムの絶叫を聞き思わず見ると、鬼の形相でトムがハルバードを振るっている。

隣に立っていたはずのアアナの姿が見えない。

何が起こったのか、レイは考えたくは無かった。

キングオークに魔法が通らないならと、魔力ポーションを飲みつつハイオークたちに魔法をぶつけていく。

不意にレイの視界が暗くなった。何事かと空を見上げると、巨大な何かが空中にいる。戦闘のため明りが村中に灯されているが、何が空中を飛んでいるのか分からなかった。

次の瞬間轟音が鳴り響き、トムの前にハイオーク以上の巨体が立ちはだかった。

何が起こったのかを理解したレイは魔法を撃とうとするが、既に魔力が少なくなっており、

魔法を出すことは出来ない。

杖から剣に持ち替えたレイは、防壁上部の歩廊を走り始めた。

下で誰かが叫んでいるが、レイの耳には入らない。

トムのすぐ近くまで走りよると、キングオークの背後でレイは思い切り跳躍した。

両手で剣を振りあげ、キングオークの頭に剣を突き刺す。

全体重をかけて剣を押し込んでいく。

「グルアアアアアア。」

キングオークは叫びながら頭を激しく左右に振った。

レイは必死にしがみ付いていたが、あまりの激しさに振り落とされた。

「レイ!」

トムが落下地点に向かって走り出し、体ごとレイを受け止める。

自分の頭に剣が突き刺さっていることが分かったのか、今まで聞いたことが無いような咆哮が響き、キングオークはレイたちを睨みつけた。

頭に剣を突き刺しても死なないことに絶望し、レイとトムは死を覚悟した。

2人にキングオークの棍棒が振り下ろされる瞬間、

『ふんぎゃああ。』

という鳴き声と共に、村中心の建物から放たれた風魔法が、キングオークの首を切り落とした。

レイとトムが驚いて見ると、タックとフクンが全身の毛を逆立てて威嚇していた。

 時が止まったように誰も動かなかった。

オークたちも何が起こったのか分からず、切り落とされたキングオークの頭を見つめている。

事態を把握したのはロックが一番早かった。

数少ない交戦中の仲間に対して声をかける。

「キングオークは倒された!一気に畳みかけるぞ。」

『おう!』

勢い付き最後の力を振り絞って皆武器を振るう。

トムはキングオークの頭から剣を引き抜き、気を失ったレイを引きずって建物へと向かった。

相変わらず毛を逆立てたタックとフクンは、キシャアアと鳴いていたが突然、

「しゃがむにゃあ!」

と叫んだ。何事かと皆思ったが、トムが

「皆さん!しゃがんで!」

と叫び、ハイオークと戦っていた者が一斉にしゃがむ。

と同時に再び風魔法が一気にハイオークたちの体を真っ二つに引き裂いていった。

風の刃が星空へと巻き上がっていき、残されたのは死屍累々のオークだった。

東の空が少し明るくなっていた。

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