53.友のために
レイはレシーアが離脱した後も、村内に侵入したハイオークに魔法を撃ち続けていた。
キングオークにも魔法を撃ったが、表面の皮に少し傷が付くだけで、ダメージが入っているように見えない。レイも少しずつ疲れており、魔法の威力が下がっていた。
トムの絶叫を聞き思わず見ると、鬼の形相でトムがハルバードを振るっている。
隣に立っていたはずのアアナの姿が見えない。
何が起こったのか、レイは考えたくは無かった。
キングオークに魔法が通らないならと、魔力ポーションを飲みつつハイオークたちに魔法をぶつけていく。
不意にレイの視界が暗くなった。何事かと空を見上げると、巨大な何かが空中にいる。戦闘のため明りが村中に灯されているが、何が空中を飛んでいるのか分からなかった。
次の瞬間轟音が鳴り響き、トムの前にハイオーク以上の巨体が立ちはだかった。
何が起こったのかを理解したレイは魔法を撃とうとするが、既に魔力が少なくなっており、
魔法を出すことは出来ない。
杖から剣に持ち替えたレイは、防壁上部の歩廊を走り始めた。
下で誰かが叫んでいるが、レイの耳には入らない。
トムのすぐ近くまで走りよると、キングオークの背後でレイは思い切り跳躍した。
両手で剣を振りあげ、キングオークの頭に剣を突き刺す。
全体重をかけて剣を押し込んでいく。
「グルアアアアアア。」
キングオークは叫びながら頭を激しく左右に振った。
レイは必死にしがみ付いていたが、あまりの激しさに振り落とされた。
「レイ!」
トムが落下地点に向かって走り出し、体ごとレイを受け止める。
自分の頭に剣が突き刺さっていることが分かったのか、今まで聞いたことが無いような咆哮が響き、キングオークはレイたちを睨みつけた。
頭に剣を突き刺しても死なないことに絶望し、レイとトムは死を覚悟した。
2人にキングオークの棍棒が振り下ろされる瞬間、
『ふんぎゃああ。』
という鳴き声と共に、村中心の建物から放たれた風魔法が、キングオークの首を切り落とした。
レイとトムが驚いて見ると、タックとフクンが全身の毛を逆立てて威嚇していた。
時が止まったように誰も動かなかった。
オークたちも何が起こったのか分からず、切り落とされたキングオークの頭を見つめている。
事態を把握したのはロックが一番早かった。
数少ない交戦中の仲間に対して声をかける。
「キングオークは倒された!一気に畳みかけるぞ。」
『おう!』
勢い付き最後の力を振り絞って皆武器を振るう。
トムはキングオークの頭から剣を引き抜き、気を失ったレイを引きずって建物へと向かった。
相変わらず毛を逆立てたタックとフクンは、キシャアアと鳴いていたが突然、
「しゃがむにゃあ!」
と叫んだ。何事かと皆思ったが、トムが
「皆さん!しゃがんで!」
と叫び、ハイオークと戦っていた者が一斉にしゃがむ。
と同時に再び風魔法が一気にハイオークたちの体を真っ二つに引き裂いていった。
風の刃が星空へと巻き上がっていき、残されたのは死屍累々のオークだった。
東の空が少し明るくなっていた。




