51.近接戦
近接戦で戦う者の多くが、ハイオークとの戦闘経験は無い。オークを複数人でやっと倒せるという者も多く、なすすべなくハイオークの犠牲になっている。
ロック・ゴザ・セイン・クルンはキングオークに近づこうとハイオークを屠りながら前に進もうとしているが、ハイオークが立ち塞がり思うように進めない。
トム・アアナとCランク冒険者たちが、複数人で1体ずつハイオークと戦っているが、全体的にジリジリと後退していく。
戦いの最中、異様な威圧感を感じてトムが門の方を見ると、キングオークがまさしく門から村内に侵入する所だった。
ハイオークよりも頭2つ分大きいキングオークは門の所で立ち止まり、傍らにあるオークの死体から棍棒をもぎ取ると、適当に投げ始めた。
避ける間もなく、ハイオークや冒険者が投げられた棍棒に当たり倒れていく。
武器を投げ始めたキングオークによってさらに劣勢になり、ロックたちも後退し始めた。
何体目だろうかトムがハイオークと交戦している最中、不意に空を切る鋭い音がした。
横からドサという音がして見ると、アアナが血だらけになり倒れている。
「アアナさん!」
トムは絶叫し、目の前のハイオークをハルバードで突いて倒すと、アアナを抱き起した。
アアナの頭にキングオークの投げた棍棒が直撃し、頭が半分潰れてあらぬ方向に向いている。
一目で絶命していることが分かり、トムは全身の血が沸き立つのを感じた。
「うぉぉぉぉぉ。」
トムは雄叫びを上げながら目の前のハイオークをなぎ倒し、キングオークへと向かっていく。
「お前だけは!お前だけはっ!」
「ダメよ。下がって。」
戦況を建物の中から見守っていたミナが叫ぶが、トムにその声は届かなかった。
視界の端に突進してくるトムの姿を確認し、キングオークはニヤリと笑った。




