5.武器屋ハンマースミス
昼食後剣技と体術の指導を受け、2人はへとへとになりながらトモリーツ亭に向かった。だが中に入ることはなく、さらに3本裏通りに行き多少迷いながらも武器屋ハンマースミスを見つけた。ハンマースミスは大通りに立ち並ぶ武器屋と異なり、所狭しと商品が並べられている。
2人は店の奥へと進んでいきそこで店番をしていた少年に、武器と防具の修繕を依頼したいと伝え、教官の書いた紙を渡した。少年はさらに奥に向かって大声で客が来たことを伝えたが、一向に誰かが来る気配がない。ふうっとため息をつきながら少年は奥に行き、1人の髭をたくわえた男を引っ張って連れてきた。
「何だよ。店じまいだよ。酒飲ませてくれよ。」
ぶつぶつ言う男に対して、少年はまだ店じまいではないし、再度客が来たことを伝えた。
たまご頭を掻きながら、面倒くさそうに客を一瞥して男は言った。
「何修理してほしいんだ。見せてみろ。」
2人は武器と防具を渡し男はそれを眺めていたが、急に少年に対して今日はもう仕事終わりだから帰れと、店から出ていくように言った。
少年が去ったあと、閉店の札をかけ扉にカギをかけた男は2人のほうを向き、
「これをどこで手に入れた。」
と鋭い眼光で聞いた。先ほどの酒が飲みたい発言の時とはうってかわり、職人としての鋭い眼差しと引き締まった表情をしている。
2人は顔を見合わせて何を話してよいのやらと思案していたが、本当のことを話さないと直さないぞという男の脅しに屈して、自分たちの名前と召喚されてからの一連の出来事を話し始めた。
「あのバカ王とうとうやりやがったか。」
険しい顔つきのまま男は言った。そして、
「良かったな、城から出られて。あそこの騎士団長もアホだからな。こいつらが手に入ったのは運が良かった。
防具はどっちもレッドドラゴンの皮が使われている。変色してるがまだまだ使える。匂いと汚れを取りゃいい。
武器はどっちもミスリル製だが、何か混ぜ物がされてる。強度が増してんだ。ミスリルの軽さはそのままだ。磨けばまた使える。こりゃどっちもいいもんだ。2人の体格に合わせて直してやる。」
男は一気にまくし立てると、2人の体を慣れた手つきで測り始めた。測られるために時々体勢を変えながら2人が男のやることを見ていると、
「武器の種類はどうする?」
と突然聞かれた。
「俺は初心者なので、扱いやすい武器が良い。」
とレイはたどたどしく答え、それなら剣が良いだろうなと男は言った。
「自分は大剣がいいっす。」
トムは大剣と言ったが、男は眉間に皺を寄せて、
「斧の方がいいんじゃねえか?」
「いや。大剣で。」
「斧は嫌いか。」
「まっ。そうっすね。ダサいし。」
ダサさで武器を選ぶなよと男は言い、トムの体格だと斧の方が良いと推している。
2人の押し問答を聞きながら、レイは紙とペンを袋から取り出し、何やら絵を描いていた。
「2人ともこういう武器はどうだ?」
レイは斧の先に鋭い槍が付いた武器が描かれた紙を2人に見せた。
「初めて見る武器だな。」
「自分も初めて見るっす。」
「ハルバードという武器で、斧としても使えるし槍としても使える。」
「うん。これカッコいいっすね。名前もカッコいいし。自分これが良いっす。」
「初めての武器を作るのか。こりゃ手がかかるな。」
レイの絵を見ながら2人はワイワイと話している。
男はレイを見ながら、
「ところでレイよ。これどこで見たんだ?何で知ってる?」
「召喚前に見たことがある。レプリカで。」
「レプリカ?」
「本物そっくりに作ったやつだ。」
「そうか。実物を見たかったが、何とか作るさ。」
「頼む。」
レイは剣を、トムはハルバードを作ってもらうことが決まり、修理している間はギルドで武器と防具を借りることにして、2人は店を後にしようとした。
「おい。ちょっと待て。」
男は2人を呼び止め、さらに話を続けた。
「俺の名前はスミスだ。これからは名前で呼んでくれ。あと、召喚云々の客の情報は絶対漏らさねえから安心しな。持ってる武器の強さとかお前らも他人に言うんじゃねえぞ。」
2人はありがとうとスミスに言い、扉を開けようとした。スミスはカウンターの上に置かれた紙に気付き、中身を読んでから大声を張り上げた。
「何で俺がハゲ呼ばわりされんだよ!あいつも髪薄いじゃねえか!」
巻き込まれる前にレイとトムはそっと通りへと出て、夕暮れの道を歩いていく。少し歩いたところでレイは独り言のように話し始めた。
「なあ。何で武器屋はスキンヘッドが多いんだ?」
何の話か分からないが何だか可笑しくなり、トムはぶはっと噴き出した。