47.転嫁魔法
キングオーク・ハイオーク・オークからなる数百体の軍勢は王都に到達し、オークたちが一斉に門に体当たりし始めた。
弓で攻撃し門を内側から支えているが、数の暴力で迫ってくるオークの足を止めることは出来ない。
次第に門に亀裂が入り、内側へと押されていく。
そのような状況でも騎士団長は冷静だった。大臣提案の第2の策を発動させようと、多くの魔術師と共に監視塔の上から外を見下ろしている。
凄まじい臭気と咆哮と振動の中、魔術師たちは詠唱を続けている。オークたちが到達する寸前まで半ば強引にかき集められた魔術師たちは、額に汗をかきながら長い詠唱を続けていた。
詠唱が終わる頃杖の先に光が灯り、魔法発動の準備が整った。
丁度その時、門が破られオークたちが王都内になだれ込む。衛兵たちが戦っているのか、剣の音と悲鳴が聞こえてきた。
しかし騎士団長は救援に向かうことなく剣を引き抜き、剣先を南に向けて号令を出す。
「放てーーー。」
魔術師は一斉に同じ方向に杖を向け、魔法を放つ。
それぞれの魔法の光は一塊になり、一直線に南、すなわちキッコーリ村の方向に飛んで行った。
すると不思議なことが起こった。王都内になだれ込んでいたものも含め、オークの軍勢たちが突如方向を変え、南に向かって進軍していく。
騎士団長は大勢の魔術師が倒れている中ニヤリと笑い、
「よし。成功したな。ふぅ危なかったぜ。」
と言い放ち、兵士に門を直ぐ塞ぐように命令した。
キッコーリ村では村長・ロックウッド・セイクルズの面々と、アアナ・レイ・トムは、防壁の上から王都の方向を見つめていた。
「今頃だろうて。」
村長が静かに言う。
王都が今どのような状況になっているのか分からない。防壁内では戦えない者たちが作業を続けている。
すると突然王都の方角から光の玉がキッコーリ村に飛んできた。全員身を屈め迎撃しようと警戒したが、光の玉は村の上空で弾けただけで、何事もなく消えた。
「何だい?今の。」
アアナが驚きながら疑問を口にする。
レイが何か分からないかとロックウッドの方を振り向くと、全員難しい顔をしていた。
「やばいね~」
セインが言うので見ると、セイクルズの面々も難しい顔をしている。
「何ですか。あれ。」
トムが聞くと、レシーアが答えた。
「あれは転嫁魔法よ。光魔法の1つね。自分に向けられたヘイトを別の人に転嫁するの。」
「ということは。」
「王都に向けられたオークたちのヘイトが、この村に向けられたということよ。」
「つまりオークたちが来ると。」
「そう。」
「はぁぁぁ。そんなこったろうと思ったんじゃ。備えといて良かったの。」
村長が盛大なため息とともに言い放つ。
「来るとしたら夕方だろうな。皆には昼の後に言うぞ。」
昼食後、オークの軍勢がキッコーリ村に向かっていること、夕方頃に到達することをロックが村人と避難者に伝えた。
来ないかもしれないという一縷の望みを持っていた村人たちは、一様に絶望の表情になった。
「皆、そんな顔するな。俺たちがいる。あと少し、皆で準備しよう。」
オーク襲来を伝えた後、ロックたちは一か所に集まり、最後の細かい打ち合わせをしていた。
そこにポッタが大きな荷物を背負って走ってくる。
「みなさぁぁぁん。これ。」
ポッタが背負っていた荷物を開けると、魔力ポーションが大量に入っていた。
「これは。」
「とっておきですよ。最高級。取っておいたんですよ。是非ロックウッドとセイクルズの皆さんに。以後お見知りおきを。あっ、レイさんも使って良いですよ。」
一気にまくし立てた後、「じゃあ。」と言って、ポッタは走り去っていった。
「さすがだな。」
ロックは呆れたような感心したような顔で言う。
「そうなんですか。」
レイが問うと、
「強力な魔法を撃てる奴が使った方が良いからな。有難く使わせてもらう。」
とレイを含めた3人の魔法使いで分けることになった。
その後散開し、皆が慌ただしく準備する中、レイはタックとフクンに話しかけた。




