46.王都にて
衛兵長はかなり気を病んでいた。贄として門前に立たせていた連中が、一人残らず逃亡したからだ。
朝になり、衛兵からの報告を受け慌てて監視塔から確認したが、人影が全くない。
新たに贄を用意するには時間が足りない。
思い余って騎士団長に相談したが、「王と大臣には言うな。」と口止めされた。
次第に強くなってくる臭気に心が沈む。オークの軍勢が確実に近づいてきている。
門を木と石で固めているが、もし破られれば一番に襲われるのは自分たち衛兵だ。
貯めこんだ金で強い装備を買い集めたが、それでも足りない。
王の署名を偽装した文書を作成し、半ば強奪するように武器や防具を集めたが、それも騎士団長に贄を逃した罪の口止め料として、ほとんどを取られた。
オークの咆哮が聞こえてくる。臭気だけではなく、次第に振動も強くなっていく。
いよいよ明日オークの軍勢が到達するかもしれないというその夜に、衛兵長は複数の衛兵と共に逃げ出した。
しかし王都に隠れられるような場所もなく、兵士にすぐに捕らえられ騎士団長の前に引きずり出された。
「喜べ。お前たち。王の役に立つ時が来たぞ。」
騎士団長が薄く笑い、安っぽい装備を捕らえた衛兵たちに着けていく。
「何卒。お慈悲を。」
土下座し頭を地面にこすりつけ衛兵長は慈悲を請うたが、その言葉が届くはずもなく騎士団は衛兵たちを監視塔の上に連れていく。
いよいよ王都前にオークの軍勢が到達しようというその時、監視塔上から捕らえられた衛兵長たちは外に投げ出され、剣を一振りする間もなく門へと殺到するオークに踏みつぶされた。




