45.覚悟はあるか
村の中のあちこちに明かりが灯され、ロックを中心に集団での戦闘訓練が開始された。
2時間ほど連携を確認し、作戦を共有後訓練が終了した。
皆が自由行動する中、レイは星空を見つめながら考え事をしていた。
「どうしたんです?」
ロックウッドの僧侶サクソウが隣に座る。
小刻みに震え返事をしないレイに、サクソウは話始めた。
「私も怖いんですよ。魔物と対峙するときは。普段も怖いですが、こんな集団との戦闘の時が一番怖い。仲間が死にはしないか。それ以上に自分が死にはしないか。」
反対隣にトムが座ったのを見ながら、サクソウは話を続けた。
「でもね、仲間信じてますから。自分が頑張らないと誰かが死ぬかもしれない。そう思いながらやってます。慣れませんが。」
レイと同じように星空を見ながら苦笑している。
トムも会話に加わった。
「やっぱり慣れませんか。」
「慣れませんよ。怖いし。でも逃げたらそこで終わりです。魔物に背を向けたらそこで死にます。」
レイは黙ったままだ。トムが心配そうに見ている。
「大丈夫です。AランクとBランクのパーティーがいるんです。実は私たち、キングオーク倒したことあるんですよ。」
「本当ですか。」
ふいにレイが返事をした。
「本当ですよ。ドラゴン倒したこともあります。酷なこと言いますが、覚悟を決めなさい。逃げることは出来ないんです。まだ起こってないことに気を揉むよりも、今体調を万全にすることに集中なさい。深呼吸するんです。食事をして眠りなさい。きっと明日は晴れて、気持ちの良い朝になりますよ。」
優しくサクソウは微笑んでレイを見る。
「飯食いに帰りましょう。婆ちゃんが今日ご馳走にするって。」
トムが腹をさすりながら言った。
「食えるかな。」
「無理にでも食べるんです。ヨロヨロのままオークの前に立ちたいんですか。」
サクソウは2人に帰るように促し、1人残って再び星空を見始めた。
「残酷なこと言うなあ。」
いつの間にかロックが横に立っており、サクソウに話しかけた。
「犠牲は必ず出るぞ。」
何度も魔物との戦闘で修羅場をくぐり抜けてきたロックウッドは、村がオークの軍勢に襲われたら死人が出ることを知っている。
5対1でキングオークに対峙するなら犠牲を出さずに勝てるが、相手はおびただしい数の軍勢だ。こちらには戦闘経験が少ない者や、オークを複数人で倒すのがやっとの者もいる。
「それでも。恐怖に怯え続けるより良いんです。」
サクソウは静かに答えた。




