29、300年後
「これが300年前に起こったレイテオス戦争です。3年弱の間に起こったことよ。」
教師の言葉に教室中がシンとする。
口を開けている者、目をキラキラさせている者。
その中でレイが騒ぎ始めた。
「俺の父ちゃんの店にザムって人来たよ!」
「マジかよ。」
「すげえな。」
別のレイとロックが騒ぎ出し、教室中が大騒ぎになった。
「静かに!今日の授業はここまで。明日からのお休み、楽しんでね。休み明けにテストやります!」
至る所から「うええええ。」という悲鳴が聞こえる。
生徒たちを全員見送った後、教師は机の下から小さなカバンを出した。
旅行に必要な物が詰め込まれている。
魔法陣の効果で大量の物を入れることが出来る魔法のカバンだ。
ここはかつてキッコーリ村と呼ばれた、何の変哲もない村だった。
町になり、魔族の襲撃で無くなり、その後復興して今はタリカ王国の王都である。
人間でありながら神になった男が過ごしたことのある場所だ。
教師はここから巡礼の旅に出る。
旧国境の砦跡と神の作った町を経て神の塔へと向かう。
昔は盗賊が出て危険な旅だったが、今は道が整備され乗合馬車が頻繁に行き交う安全な道となっている。
「お疲れ様です。どちらへ行かれるんですか。」
「巡礼の旅に。」
「そうですか、お気をつけて。」
同僚たちと表面的な会話を交わしながら、足取り軽やかに教師は乗合馬車の出発地へと向かった。
ディアクス山は他の山と比べて標高が低い。
かつてはここから魔族が襲来し、人々を虐殺したとされている。
今は大陸の西側を一望できる景勝地となっている。
僻地にあるため、訪れる人は滅多にいないが。
ふもとには町が広がっており、大きな石碑が町の端に建っている。
かつての英雄ドインが眠るこの地を見下ろすように、ディアクス山の頂上に4人の人間がいた。
「しかし…女ってのは…。」
斧を担いだ赤毛の大柄な女が呟いた。
「股がスースーしますな!」
赤毛の女の発言に、他の3人がズッコケている。
「あのさあ、トム。」
小柄で浅黒い男が呆れ気味に言う。
「せっかくの女の子だから、もっと上品にしようよ。」
「ジャミ、そうは言ってもね。慣れんのですよ。」
「でもまあ、トムらしいっちゃらしいね。」
黒髪の女が言った。
「で、女なのにトムなんだ。マールとかハリナとかアアナが良かったんじゃ。」
「良いんすよ。何かしっくりこなくて。慣れてる名前が良いっす。」
トムがニカっと笑い、ポニーテールを揺らしている。
「で、レイさんはレイさんなんすね。元の…元いた世界の名前にしないんすか。」
「別にいいよ。私もこの名前の方がしっくりくる。」
ショートカットの髪をワシワシしながらレイが言った。
「そろそろ行くか。」
青みがかった黒髪の青年が声をかける。
「楽しみだなあ。ザムはこの大陸全部見たんでしょ。」
「隅から隅までな。ダンジョンも全部行った。」
「良いっすねえ。で今度は船っすか。初めて乗ります、船。」
「ああ。人魚さんたちの話では、この大陸以外にも大陸や大きな島があるらしい。」
4人は南から船に乗り、この大陸よりはるか先の新大陸を目指す。
どこかにかつての仲間がいることを願って。
レイはふもとの町を見ながら言った。
「ロックやミナ…どこかにいるかな。」
「いますよ、絶対。」
「ドインは絶対分かると思う。」
ジャミはドインが生まれ変わっても見つける自信があるらしい。
「行こう!海に!」
「待って。早い!」
「ワハハハハ、良いっすね。町まで競争ですか。」
「おい、あんまりはしゃぐと転ぶぞ。」
4人は英雄が眠るふもとの町へと駆け下りていった。




