42.逃走
奴隷や貧民たち全員に声をかけ、暗闇に完全に包まれるまで4人は近くの森に隠れた。ミナは衛兵に見つかることなく縛りを解いていった。
そして日が完全に落ちて真っ暗になった。
監視塔には明りが灯されているが、視界はそれほど広くない。
「レシーア。頼む。」
「はい。」
レシーアは静かに詠唱を始める。
詠唱が終わると同時に霧が辺りに立ち込めてきた。
衛兵が覗いているが、何が起こっているのか分からないようだ。
「皆、行くぞ。静かに。」
4人1列で手をつなぎ、静かに道を歩いていく。
ミナが先頭に立ち周囲を警戒しながらゆっくりと歩いていく。
村へと続く街道を行くが、夜の森は不気味なほど静かで、重い空気が立ち込めていた。
東からうっすらと空が明るくなり始めた頃、一行はようやくキッコーリ村へとたどり着いた。
ロックはほっとため息をもらし、閉じられている門を見上げる。
この日キッコーリ村には300人以上の避難者が滞在することになる。
朝になりロックの報告を聞いたキッコーリ村長は、難しい顔をしていた。
ロックが王命に背いたこともだったが、建物を作ってもこれ以上の人を受け入れられるのか微妙な状況だった。
それ以上にオークの軍勢が王都を襲おうとしているという、懸念していたことが現実に起こりつつある。
だが良いこともあった。王都へ帰還しようとしていたBランクパーティーセイクルズがキッコーリ村に合流したのだ。
「マジかよ~。」
セイクルズのリーダーであるセインが気の抜けた声でぼやいた。
「帰るの遅くすりゃ良かったわね~。」
これまた抜けた声で横にいた女が言う。
「そうね~。」
「全くね~。」
残る2人の男女も全く緊張感が無い。
一見やる気はないが、剣士2人・魔法使い・僧侶からなるこのパーティーは、本気を出せばロックウッドに匹敵する力を発揮する。
ただ王と会うのを面倒くさがってBランクのままでいるという。
「オークの軍勢や残党がこちらに来ないとも限らん。そこでだ。」
村長が2つのパーティーを前にして指示をだす。
「皆さまには王都につながる街道に行ってもらいたい。立札を作り、王都に人が近づかないようにするんじゃ。町や村にも出来れば伝えたい。ただオークの軍勢に近づかんように。今刺激するのは危険じゃ。」
「OK。」
「分かった~。」
「そして夕暮れ前に戻ってきてもらいたい。もし村が襲われたらと考えて、防衛隊を結成する。オークを倒せる村人と避難してきている奴から選ぶ。夜はそやつらと作戦を考えてもらいたい。時間は無いが訓練も必要じゃな。」
「そうだな。」
「夜眠れんか~。疲れる~。」
「その代わり皆さまには全員宿の個室を用意する。報酬は全てが終わった後じゃが、必ず払うと約束しよう。」
「まあ。生きていればな。」
ロックが言う。キングオークだけならば2つのパーティーで討伐できるが、どのくらいの数のオークが帯同しているか分からないの
「こちらも策を考えている。直ぐに実行じゃな。」
「どんなだ。」
「肝はレイと猫ちゃんたちじゃ。」
「魔法で何かするのか。」
「魔法ではないが、レイの知識と魔力が必要でな。」
村長は天井を仰ぎ、何かを考えていた。




