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復讐者  作者: 安慶
最後に望むもの
411/421

19、レイとマール

「お願いします!」

 頭を地面にこすり付け、土下座しながらレイは頼み込んだ。

「お願いします!ここ追い出されたら、私死ぬしかないんです。」

「んなこと言うてもにゃあ。」

困ったキッコーリが逆立った髪の毛をボリボリ掻いていた。

キッコーリの隣には腕組みしたアアナがいて、レイを睨みつけている。

「私しゃ反対だね。こんなどこの馬の骨かも分らない奴、村に入れるべきじゃあないよ。」

「でも、追い出されたら死ぬしか。」

「気の毒だと思うけどね。あんたが盗賊じゃない、マトモな人間かこっちゃ分かんないんだよ。」

レイは背中を丸めてうなだれた。

アアナの言うことも分かる。

レイはみずぼらしい格好の貧相な青年で、身分が分かる物を何一つ持っていなかった。

それに加えて金も、金目のものも持っていない。

「さっ、出てっておくれ。こっちも忙しいんだ。」

アアナがレイを追い出そうとして、腕を掴んだ。

レイは抵抗を試みるが、圧倒的な力の差で扉まで引きずられていく。

外に追い出そうとしたところで、入ってこようとする誰かとぶつかりそうになった。

「おっと、マールさんか。村長に用か。」

「いやね。外まで声が聞こえて来たんでね。」

「すまない。コイツがここにいさせてくれってね。しつこいんだ。」

アアナがレイを前に突き出す。

 マールはレイの顔をまじまじと見ると、不意に質問した。

「あんた、名前は。」

「…レイ。」

「家族は。」

「いない。」

「金は。」

「無い。」

「…ふん。」

 マールはキッコーリに顔を向けると言った。

「レイはあたしん家で面倒みるわ。良いね。」

「えっ。」

「何かあったらあたしが責任取るよ、キッコーリ。」

「ああ。うん。」

 マールの決定にキッコーリは反対しなかった。

アアナはレイを睨みつける。

「この村で変な事すんじゃないよ。そんときゃ追い出すからね。」

「はい。ありがとうございます。」

 レイは深々と頭を下げ、キッコーリの家を後にした。


「マールさん、何で私を引き取ったんですか。」

雨の降る日、仕事の無いレイは店番をしているマールに尋ねる。

雨の日は木こりの仕事が無いため、レイは暇を持て余していた。

「あんたが悪い奴じゃないと思ったからね。」

「一人暮らしで私引き取るの怖く無かったんですか。」

「金もねえ、金目のものもねえ家よ。何すんだよ。」

マールが豪快に笑い、つられてレイも笑った。

「マールさんはずっと一人暮らしなんですか。」

「だんなも息子も死んじまったからね。」

「すいません。」

「良いってことよ。昔のことだかんね。」

 マールは窓の外を見つめる。

相変わらず雨が降っていた。

「息子、結婚してたんよ。孫生まれたけど、すぐ死んじまってね。体調悪くなって嫁も死んじまった。息子も事故でね。」

ため息をついたマールは話を続けた。

「孫さね。女の子だったらレイナって名付けようと思ったんよ。」

「私の名前と似てますね。」

「その『私』ての止めえな。男だったら『俺』って言わにゃあ。」

レイは苦笑した。

「頑張って直します。男だったら何て名付けようと。」

「そうさね、ひい爺さんの名前さね。」

「ひい爺さんの。」

「トムって名付けようと思ってたさね。」

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