8、死闘
レイはゆっくりと剣を構え、呼吸を整えた。
聖騎士もゆっくりと剣を構え、レイの前に立ちはだかる。
相手は完全に顔を覆う兜を被っており、表情は見えない。
最後にレイはゆっくりと息を吐くと、間合いを一気に詰めた。
わずかに腰を捻り、左肩目掛けて斬りかかる。
聖騎士が手首を捻ってレイの剣を剣で受け止めると、斬りかかった勢いを殺さずに剣先を弾き、動きがブレたレイの手を切り落とそうとした。
レイは肘を上げながら前に押し出し、腕で相手の剣を受け止める。
レイやロックの鎧は、動きを阻害しないように関節部分はドラゴンの皮で覆われている。
腕やすねの部分はディーディーの鱗が使われ、軽いながらも非常に頑強だ。
さすが3厄災の1柱と言うべきか、今もオリハルコン製の剣を受け止め傷ひとつ付いていない。
だが、相手の一撃が思いのほか重い。
体格はレイより華奢で、体重をかけた攻撃では無いのだが、骨が痺れるような衝撃を受ける。
レイの動きがほんの一瞬止まったのを好機ととらえた聖騎士は力強く前に踏み出して攻撃に転じる。
腕と手首の動きはわずかだが、正確で速い攻撃が繰り出され、レイは防戦一方だ。
目で追うのでは攻撃を防げない。
剣が空を切る音で何とか位置を把握し受け止めている。
トムはレイが防戦になったタイミングで聖騎士の左側に回り、斜め後ろからの攻撃を試みる。
トムの武器は大ぶりのハルバードだが、強力な一撃よりはと、今は最小限の動きで相手の肩や首を狙う。
そんなトムの攻撃を、聖騎士は左腕に付けた小さな盾で防いでいた。
右腕でレイを攻撃し、左腕でトムの攻撃を防ぐ。
ほんの少し気が緩んだだけで、レイとトムの攻撃をもろに受けそうだ。
それを狙ってトムは攻撃を繰り出すのだが、聖騎士も正確無比な動きで攻撃を続け、攻撃を防いでいる。
そして何よりも恐ろしいのは、聖騎士は呼吸も乱れておらず、疲れも見せない。
延々と戦い続けられるようだ。
攻撃から防戦、防戦から攻撃と続く中、レイの背後から別の斬撃が聞こえてくる。
オリハルコンよりも軽めの音で、恐らくはセインたちも戦いが始まったのだろう。
タリカが兵士に指示を出している声、冒険者の怒号、レイの奴隷たちの雄叫びが聞こえてくる。
完全に挟み撃ちにされたと気が付いた時にはもう遅かった。
レイたちはジリジリと追い詰められていった。




