4.新人冒険者
翌朝パンと野菜スープを食べた後、武器と防具を身に着けたレイとトムは、連れ立って冒険者ギルドへと向かっていく。
王都の門を入ってすぐ左手に冒険者ギルドがある。
レイとトムが冒険者ギルドの門をくぐると、朝から大勢の冒険者で賑わっていた。
依頼を受ける者、仲間を探すもの、新人冒険者をじろじろ見ながら酒を飲む者…。
2人は一番左にあるカウンターへ行き、冒険者登録をする旨を伝えた。
受付嬢は顔を少し歪め、登録用紙を黙って差し出した。
愛想が悪いわけではないが、2人の匂いを嫌がっていることが分かる。
前夜に汚い武器と防具を綺麗にしようとしたが、汚れは落ちず匂いも少ししか取れなかった。
恐縮しながら登録用紙に名前を書き、さらに左にある通路を通っていく。
その先にある部屋で2人は他の新人冒険者と共に、教官が来るのを待っていた。
この世界では、新人冒険者は事前に教育を受けることになっている。
トム曰く、継ぐ店も土地も屋敷も無い者は大体冒険者になる。
何も持たない者が手っ取り早く日銭を稼ぐには冒険者しかないのだ。
だが悲しいことに、持たざる者には力も無い者が多い。
冒険者になっても粗末な武器と防具で無茶をし、わずか数日で死ぬ者も多かった。
その悲しい事態を回避すべく、冒険者ギルドは教育と最低限の武器防具の貸与を行っている。
大柄でぱっつんぱっつんの服を着た、隙のない目つきの教官が来て講義を始めた。
講義内容にはトムから聞いた話も含まれていたが、レイは目を輝かせながら、紙に書いていく。
その隣でトムも知らなかった事を小さい字で書いていた。
しばらくして教官がギルドの食堂でタダ飯食って来いと言い、新人冒険者が一斉に走り出していった。2人も食堂に行こうとしたところ呼び止められた。
「お前ら。ちょっとこっち来い。」
何を言われるのか分かっている2人は、おずおずと教官の前に立つ。
「お前らくせえな。」
遠慮も配慮も無い言い方で、教官は腕組みしながら言った。
「すいません。頂き物で私たちにはこれしか無いです。」
とレイが言ったが、教官はうーんと唸り2人を見ながら一周した。
そしておもむろに小さな白銀に輝くナイフを取り出し、ちょっと良いかと言いながら2人の武器と防具を軽く切りつけていく。
2人が驚いて抗議の声を上げようとしたところ、
「すげえぞ。良いか、これはミスリルのナイフだ。高級品だ。鋼鉄製の剣も切れるような代物だ。それが刃こぼれしてる。」
ナイフを見るとたしかに少し刃こぼれしている。
「良いやつなのに勿体ねえな。ちょっと待ってろ。」
教官はおもむろに紙に何かを書いて2人に渡した。
「どこ住んでんだ。トモリーツ亭か。そこから3本裏通りに入って防壁のほうに向かって行け。ハンマースミスって名前の武器屋があって、そこのハゲにこの紙渡せ。奴なら綺麗にしてくれるだろうよ。」
ニヤッと笑いながら教官は話を続けた。
「あとな、丁寧な話し方はやめろ。舐められる。私も僕もやめろ。絡まれるぞ。じゃあ飯食ってこい。」
2人を送り出しながら最後に、
「あと食堂の隅で飯食え。くせえからな。」
と言って、踵を返して去っていった。




