5、タリカ拗ねる
レイが神の像から飛び降り駆け出そうとした時、懐かしい声が聞こえてきた。
「おい!」
「うわっ!スミスか?」
懐かしいスキンヘッドが近づいてくる。
「勢い殺しちまって悪りいな。頼まれてたもん出来たぞ。」
スミスは白い包みをレイに渡す。
「ありがとう。使う人間は今はここにいないが。」
「礼はエラに言ってくれ。作ったのはほとんどアイツだ。俺は言われるまま作っただけだ。」
「スミス、良いのか?付いてきて。」
レイの心配をよそにスミスはハンっと笑った。
「今更その言いぐさはどうよ?散々巻き込んどいてよ。」
「ゴメン。」
「良いさ。こんな面白れえもん普通は見られねえ。まっせいぜい俺を守りながら戦ってくれよ。」
「ぶっ。」
レイはスミスの軽口に笑ってしまった。
昔はスミスやトムとこんな軽口を叩き合いながら旅をしていた。
今まさに最終決戦前の様相なのだが、マオハリたちと戦った時のような悲壮感や緊張感が無い。
何故これほどに気負いが無いのかと思う。
恐らくロックやセイン、スミスといった懐かしい顔ぶれに囲まれているからだろう。
レイの隣にはニコニコしているトムがいた。
レイは思わずトムに微笑みかける。
スミスの傍にはタリカがいた。
いきり立った冒険者たちやレイたちに囲まれて、かなり大人しいし目立たない。
「タリカ、やけに静かだな。」
タリカはレイをチラッと見ると、ブツブツ言い始めた。
「俺さ。田舎でのんびりしたかったんだよね、人生。何でこんなとこで王勅命で、司令官みたいなことやんなきゃなのよ。」
タリカはぼやき出すと止まらない。
「アッカが出張るんかなと思ったのよ。そしたら俺行けってなって、あの嫌味なお貴族連中から。俺牢屋で本読んでる方が良かった。」
ブツブツ言いながらガクッとしていたタリカが急にレイを睨んだ。
「だから絶対勝てよ。俺この戦い終わったら絶対ゴロゴロするんだ。」
「おい。それ死亡フラグってんだぞ。あまり言うなよ。死ぬぞ。」
「俺は死なねえ。いざとなったら逃げる。」
この戦いの司令官は逃げる気満々のようだ。
実質的な司令官はレイのようで、その場にいる全員がレイの次の言葉を待っている。
冒険者たちの目はギラつき、兵士たちは力が入っているのか筋肉がパンパンだ。
「じゃあ、仕切り直して…。」
レイはわざとらしく咳をすると、
「ここから神の塔に一気に攻め込む。立ちふさがる奴は全員敵だ!行くぞ!」
と再び号令を出し、神の塔に向かって走り出した。




