1、日常が崩れるとき
その日はいつも通りに始まった。
朝支度をし、門の前に立つ。
昼前に交代だ。
これを何日も何日も繰り返していく。
ギルガ神聖国の聖騎士団は華やかな職業に見えて、実際の仕事は地味だ。
高位の神官の警護や魔物退治など、重要な任に就けるのはほんの一握りで、ほとんどの聖騎士団は教会や国境の警備をしている。
その中でも人気なのは、アッカディー王国との国境砦の門番と出入りする人のチェックだ。
アッカディー王国は治安がよく、ギルガ神聖国に入ってくる人は皆確かな身分の人ばかりだ。
入国の理由を聞いて書類を確認する楽な仕事で、選ばれた聖騎士団の連中はひそかに喜んでいる。
逆に人気が無いのはラガッシュ帝国との国境砦の警備で、荷物の中身を検めようとして怒鳴られたり、怪しい人物を止めて後で上官から怒られるからだ。
その日も朝から2組の巡礼者が通っただけで、砦の兵士たちは暇を持て余していた。
「ん?」
アッカディー王国を見つめていた兵士の1人が異変に気が付く。
「どうした?」
「いや。アッカディー王国の奴らが旗を掲げて来てる。」
「何?連絡は無かったんだがな。」
「連絡ミスか。」
「そうかもしれん。最近の連中はサボってばっかだからな。」
「隊長に報告して叱ってもらわな。」
「だな。」
かなりの数の王国兵が砦に向かってくる。
しかし砦を守る聖騎士団は、それほど緊張していなかった。
先頭に立つのはジャイル王国騎士団長だ。
その実力は生きる伝説とまで言われた剣聖をしのぐのではとまで言われている。
飾りではなく戦闘用の鎧と剣を身に着けたジャイルが砦の前まで来た。
騎士団の一人がジャイルの側に走っていく。
「ジャイル様、お久しぶりです。今日は何用で。」
緊張感も無く話しかける兵士を一瞥したジャイルは、静かに剣を抜いた。
剣を掲げると、ジャイルはその場で高らかに宣言した。
「アッカディー王国はギルガ神聖国に宣戦布告する。かかれー!」
うわあああという雄叫びと共に、王国軍が砦に突撃した。
「待って!待ってください。何で。」
「抵抗しなければ命だけは助けてやる!武器を取って戦うか、降伏するか、選べ!」
アッカディー王国とギルガ神聖国との間にある砦は、ものの10分でアッカディー王国騎士団によって制圧された。




