43、呪いの短剣
ジャミは慌てて短剣を手放そうとするが、黒い霧が腕を覆っていて離れない。
「っちょ。レイ、どうしたら良い?どうにかして!」
パニックになったジャミが腕をブンブン振り回す。
「落ち着け。周りがお前に近づけん。」
ロックやゴザがジャミに近づこうとするが、ジャミが短剣を振り回すせいで迂闊に近づけない。
「離れない!どうにかして!タスケテ!」
ジャミは完全にパニック状態だ。
「皆ジャミの周りから離れろ。」
ロックたちが素早く後退する。
「ジャミ。ちょっと止まってくれるか。」
レイの言葉に、涙目のジャミは止まった。
「痛いのは一瞬だ。我慢しろよ。」
「へっ?」
何をするのかと尋ねる間もなく、ジャミの腕が切り落とされた。
「ああああああああ。」
ジャミの腕から血が噴き出し、痛みのあまりジャミがのたうち回る。
レイがジャミの回復魔法をかけた。
ジャミの切断された腕がみるみるうちに回復していく。
「っ痒い。痒い。痒い。」
「ジャミ、これ飲んで。」
レシーアに渡されたかゆみ止めのポーションをジャミは一気に飲んだ。
念のためとレシーアはもう1つポーションを取り出して、ジャミの腕に振りかける。
「いきなり止めてよお。切り落とすなんてヒドイじゃん。」
まだ半泣きのジャミがレイに抗議する。
「すまない。説明したらお前逃げるだろ。」
「そうだけどさあ。」
「それに時間が無かった。あれ見ろ。」
レイが指さした先には、切り落とされたジャミの腕があった。
腕は黒い霧に包まれて、ジュクジュクと嫌な音を立てて崩れていく。
ロックは崩れていく腕を見ながらレイに尋ねた。
「何だよ、あれ。あの短剣何だよ。ミナの短剣じゃねえのか。」
「ミナの短剣だった。」
「じゃあ何であんなんなってる。くそ気持ち悪りい。」
ジャミが握っていたミナの形見の短剣は、赤黒く何かが脈打つように表面がわずかに動いている。
「レイ、あの短剣鑑定できるか。」
「スキル使ったんだがな。あれはキツイぞ。危険だ。」
レイが短剣を鑑定したところ、どす黒い色が見えた。
『魂砕きの短剣』という名前がある。
「ジャミが人を殺したことで呪いの短剣になったようだ。触らない方が良いぞ。」
「『呪い子』とはそういうことか。」
ボソッとザムが呟く。
「どうすんだ、あれ。ここに置いとく訳にもいかんぞ。」
「持てないし、魔法袋の中にも入れたくないな。」
「魔族なら持てるかもしれん。」
「止めとけ、ザム。」
ザムは短剣に近づくと手近にあった帝国兵の槍を2本使って器用に掴む。
それをそのまま遺骨を入れる木箱へと放り込んだ。
「これは俺が持っておこう。」
「ザムがか。大丈夫か。」
「ああ。触らなかったからな。これは袋の中にしまっとく。」
ザムが呪いの短剣を入れた木箱を魔法袋にしまうと、その場にいた全員がへたり込んだ。
「ヤバいな。帝国兵と戦うより緊張した。」
ロックが額の汗を拭う。
「それよりレイ。これからどうする?」
ロックの問いに答えようとしたとき、レイの通信袋が反応した。




