35、オリハルコン対オリハルコン
ロックのうんざりした顔が全てを物語っていた。
鈍い黄金色の剣、鈍い黄金色の鎧、皇帝の間にいる全ての帝国兵がオリハルコン製の装備に身を包んでいた。
「レイ、行くしかねえな。」
「ああ。」
2人は剣を構えなおし、帝国兵に対峙する。
「レイさん、行きましょう。」
「ロック任せろ。」
トムとゴザも斧と盾を構え、突撃する準備を既に終えていた。
「魔法は任せてね。」
レシーア・ライバ・タック・フクンも魔法をいつでも撃てる体勢になっている。
帝国兵が揃って前進している。
足音に一切の乱れが無く、威圧感が半端ない。
背中を汗が流れていくのを感じながら、レイたちは駆けだした。
リーチの長いトムがハルバードを先頭の兵士に振り下ろす。
相手は剣で受け止めるが、力が強いトムに押し負けている。
「トム!時間をかけるな!」
レイの声にトムが反応する。
「うっす。どあっす!」
気合と共にトムは相手の剣を弾き飛ばすと、首の付け根にある継ぎ目に斧の先を突き刺す。
相手から血が噴き出すのを見てトムはハルバードを引き抜き、次の兵士へと突進していった。
レイは相手の突き攻撃を少ない動作でかわし、横一文字に首の継ぎ目に剣を払う。
血が一気に出て倒れこむ相手を見て、2人目の兵士へと攻撃を加えていった。
ロックとゴザのコンビネーションには隙が無い。
ゴザが盾で敵を弾き、体勢が崩れた所をロックがとどめを刺す。
圧倒的に数で不利にも関わらず、レイたちの攻撃は無駄がなく、帝国兵を倒していく。
「同じ装備なのに。」
後方からあ然とした様子でマイロが見ていた。
「そうね。レベルや装備が同じでも、彼らは苦しい戦いを今までしてきたし、剣術の稽古も続けていた。そして何よりスミスの鍛冶が素晴らしかったのね。」
戦いの最中にも関わらず、レシーアが微笑んでいる。
確かに帝国兵たちもダンジョンや魔族狩りでレベルを上げていたのだろう。
訓練もしていたし、統率も取れている。
だが、レイたちはキッコーリ村でのオーク戦、シュミム王国との戦い、2回の魔族戦で、苦しいながらも何とか勝利をつかみ取った。
自分の未熟さを嘆き、アトラント直伝の腕前を持つザムに剣術を習っていた。
そしてスミスの鍛冶。
ただオリハルコンを加工したのではない。
鎧はディーディーのうろこをメインにオリハルコンで補強し、関節部分はブラックドラゴンとグリーンドラゴンの皮で機動力が損なわないようにしている。
剣もオリハルコンに機動力と強度を上げるエンチャントを埋め込み、レイたちの戦闘力と相まって数の圧倒的不利を覆していた。
「じゃああたしたちも。ライバさん、タックちゃん、フクンちゃんあそこら辺に撃ちましょうか。」
「承知ですぞ。」
『うにゃあああああ。』
「アレスちゃんは皆を守って、あそこら辺に風魔法ね。」
「ワフン。」
レシーアたちは詠唱無く魔法を次々と撃つ。
レイたちに当たらないように、後方にいるであろう魔法部隊目掛けて攻撃魔法を仕掛けているが、相手の属性を見て属性を変える器用さを見せている。
「ホホっ。」
ライバは風と火の複合魔法で、相手を熱風で焼き尽くすという凶悪な攻撃を加えている。
タックとフクンはレイたちにバフをかけたり、小さな防壁の光魔法で相手の攻撃まで防いでいる。
アレスはマイロたちを守りつつ、風魔法で帝国兵の態勢を崩していた。
「城に乗り込むなんて自殺行為と思っていたが、ここまでレイさんたちが強いとは。」
マイロが後方で目をキラキラさせている。
「おおおう。血がたぎってきましたぞ。俺も参戦…。」
そしてマイロは参戦しようとするクラトースを必死に止めていた。




