32、神の眼
「お前が?」
レイが意外そうにザムを見る。
ザムは魔族で帝国に対しても、ギルガ教会に対しても、神に対しても恨みがある。
情報を漏らすことは無いとレイは思っていた。
「俺のスキルを前に話したことあるな。」
「『ミラー』だっけか。相手と同じレベルと強さになる。」
「そうだ。だが実はもう1つある。」
「そういえば。」
レイは特殊なスキルを2つ持っている。
ほとんどの人がスキルを2つ持っていて、後から得たスキルも含めて3つ持っている者もいる。
そんな中ザムのスキルが1つというのが珍しいと思っていた。
「でそのスキルなんだが、よく分からない。」
「ん?」
「よく分からないから言えなかった。本当に分からなかったんだ。」
「でスキルって。」
「『神の眼』というスキルだ。」
「神のように色々見通せるということか。」
「いや。スキルを時々使うんだが。頭の上に真っ暗な空間があって。足元は真っ白なんだ。その光景が果てしなく広がっている。」
「それだけか。」
「そうだ。」
「確かによく分からんな。」
「よく分からなかった。だがお前たちの話を聞いて思ったんだ。これは今の神の視点じゃないかって。」
「神が視ているものをザムにも視えるということか。」
「じゃないかと。で、俺が神のものが視えるというとは、その逆もあるんじゃないかと。」
ザムはそれ以上話すことは出来なかった。
ロックが突然殴りかかってきたからだ。
「お前が!お前のせいで!ミナが!」
「わあああ。レイさん止めてください!」
ロックを押さえようとしたトムが叫ぶ。
だが、レイは止めることなく、アトラントを振り返った。
「アトラントさん。チルたちを助けるのはザムと相談して決めたんですか。」
「いや。レイ殿たちが帝都に行くことは聞いていたが。ふいに決めたのだ。ライバ殿の魔力を頼りに向かったのだがな。」
「ライバさんの。」
「ライバ殿は魔物だからな。探しやすかったのだ。」
アトラントたち魔族の奇襲が成功したのは、ザムに事前に知らせなかったからだ。
相手に情報が知れていたら対策され、アダマンタイト製の装備に身を包んだ帝国兵相手に、アトラントたちは苦戦しただろう。
「ぎゃあああ。レイさん止めてください!」
ロックを押さえようとしたトムが再び叫ぶが、レイは今後の対策について考えていた。
その日の夜、トムのあばらが3本折れた。




