30、一時撤退
城が半壊し、あともう少しで皇帝の元にたどり着くだろうとレイは思っていたが、そう甘くはなかった。
壊れたのは城の外側の部分だけで、中央部分は少し損傷しているだけだ。
マイロたちのことを考慮して、ディーディーが抑えめに攻撃したからだろう。
その中央部分にこれでもかと帝国兵が詰めていて、レイたちを見るやこれでもかと攻撃してくる。
「くそっ。きりがねえ。」
ロックが攻撃しながら悪態をつく。
レイたちはオリハルコンの装備、相手はアダマンタイトの装備だ。
こちらの方が性能も個々の強さも上だが、数は相手が圧倒的に多い。
倒しても次々と代わりの帝国兵が出てくる。
しかも連携が取れていて、レイとトム、ロックとゴザに分かれて戦っている中、それぞれを10人がかりで倒そうとしてくる。
段々と体力が無くなってくる。
ポーションで傷や魔力は回復できても、体力には限界がある。
乗り込んだ勢いのまま前進していたが、今は徐々に後退していた。
「レイ!」
「ああ。」
『にゃあああん。』
レイの合図と共にアレスに乗ったタックとフクンが光魔法を放つ。
目が潰れるほどの光魔法が収まった時には、既にレイたちの姿はなかった。
「大丈夫。このままディーディーちゃんのとこまで行こう。」
ジャミを先頭にレイたちは逃走していた。
「無理だ。数が違いすぎる。」
逃げながらザムがため息をつく。
レイたちは対シュミム王国で対人戦を経験していた。
だが、装備も強さも連携もラガッシュ帝国の方が圧倒的に固い。
全員かろうじて命はあるが、このまま進んでいけば確実に死んでいただろう。
「チルたちと合流しよう。」
レイの提案にザムが頷く。
「だな。数の違いは俺たちでは埋められない。」
「ディーディーのとこまで一気に走るぞ。ジャミ、罠は無いか。」
「無い。あともうちょっとだよ。」
レイたちは勢いよく外に飛び出すと、ディーディーの元に駆け寄った。
ディーディーの傍らには、少し緊張しているマイロとクラトースがいた。
「よし。ディーディー逃げるぞ。」
「分かったあ。にいに、乗って。」
ディーディーが体を傾けて、縄はしごを下ろす。
レイとザムが背後を警戒する中、全員がディーディーの背中に乗った。
アレスはタックとフクンを乗せたまま、一気に跳躍して飛び乗る。
「ちょっといたあ~い。爪立てないでよお。」
「クフン。」
アレスは申し訳なさそうに小さく鳴いた。
「よし、全員乗ったな。タック・フクン・アレス、俺のお腹に。マイロさんたちしっかりつかまって。」
3匹がレイのお腹の下に収まると、ディーディーは空高く羽ばたいた。
「ディーディー北に。レイの奴隷たちを見つけてくれ。」
「にいに、わかった~。」
ディーディーはザムに返事をした後、北に向けて一気に飛び去った。




