29、脱獄
ドオオン、ドオオン。
城が揺れるような轟音が上から響いている。
「何だおい。誰か!おい!」
クラトースが鉄格子を揺らしながら兵を呼んでいるが、誰も来る気配が無い。
「くそ!どうなってる!」
クマのようにウロウロするクラトースと違い、マイロは冷静に周りの様子を伺っていた。
兵士がいないことを確認すると、隠していた何かを取り出し、鉄格子を切り始める。
「おい。何やってる。」
クラトースがグイッと顔を鉄格子に押し付けてこちらを見ているが、マイロは一心不乱に鉄格子を切っていた。
ミスリル合金で作られたであろう鉄格子を人ひとり通れるくらいに切り取ると、今度はクラトースの牢を開けようとする。
「おっ。出してくれんのか。」
クラトースがウキウキしながらマイロを見ている。
牢をやっと開けると、クラトースがのそっと出てきた。
「ありがてえ。でも上で何があったんだ。」
マイロは隠していた魔法袋を漁りながら、クラトースの問いに答えた。
「私の仲間が来たんじゃないかな。」
「うはっ。脱獄させるにしちゃ大胆だな。」
「脱獄だけじゃないだろう。」
恐らくそのまま帝国を潰すつもりだ。
レイが大陸中から指名手配され、追い詰められている状況ではそれくらいするだろう。
「取り敢えず剣使えるか。」
「おう。斧の方が良いがな。」
マイロがミスリル合金の剣とグリーンドラゴンの皮を使った服を取り出し、クラトースに渡す。
これは事情を知ったポッタがタリカ大領から取り寄せたものだ。
魔法袋を通じてマイロにコッソリ渡していた。
マイロもショートソードを取り出すと、2人は階段を上っていく。
レイたちの攻撃は情け容赦ない。
自分たちが巻き添えにならないように慎重に進んでいく。
帝国兵は全員戦闘に参加しているようだ。
地下牢から地上へと続く通路には誰もいない。
「レイさんという黒髪の男性を探しましょう。合流して…。」
マイロが言い終わる寸前、目の前の壁が崩れ落ちた。
「取り敢えず外に出ようぜ。合流する前に死んじまう。」
崩れた壁の隙間から2人は先に進む。
帝国兵のいない通路を進むと、外に出られそうな崩れた壁を見つけた。
「よし。あそこから出るか。」
クラトースは嬉しそうに言う。
2人の足が速くなる。
久しぶりの外だ。
周囲を確認しないまま外に飛び出ると、巨大な黄金の壁がマイロとクラトースの目の前にあった。
「うおあ!」
クラトースが黄金の壁に驚いて尻もちをついてしまった。
「ねっ。待ってたら来たでしょ。」
「んなことよりお前も戦え。」
聞いたことのある声が斬撃の間から聞こえてくる。
「もしかしてレイさん?」
マイロが黄金の壁を回り込むようにして見に行くと、丁度レイたちが帝国兵と交戦中だった。
「マイロ。無事か。」
振り向くことなくレイがマイロに声をかける。
「無事です。一緒に戦いますか。」
「いや。いい。」
「探してた人見つかったの?もういい?痒くってえ。」
黄金壁の上から声が聞こえてきた。
「いいぞ。思いっきりやっちゃえ。マイロ!伏せろ!」
レイの声に反応してマイロとクラトースが地面に伏せた。
同時に高温のブレスが上空から降り注ぐ。
マイロたちに直接当たることは無いが、チリチリ皮膚が焼けるような感覚がある。
アダマンタイト製の装備を身に着けていても、抗うことなく一瞬で蒸発してしまうだろう。
「あっつ。なっ何?」
隣でクラトースが声を上げているが、マイロは返事をする余裕はない。
今はレイたちの戦いが終わるのを待つだけだ。
周囲の斬撃音が無くなって静かになり、レイがマイロたちに近づいてきた。
「久しぶりだな、マイロ。」
マイロは立ち上がってレイを見た。
「お久しぶりです。ここまでやるとは。」
王城は半壊している状況で、帝国兵の姿が一切見えない。
レイたちの方がはるかに人数は少ないはずだ。
マイロは驚いて周囲を見回す。
「こっちには3厄災の1柱がいるからな。」
「へっ。」
「上を見ろ。」
「ひいっ。」
ディーディーを見てマイロは腰を抜かしたようだ。
その場にへたり込んでいる。
その隣でクラトースもあ然とした表情でディーディーを見ている。
「これってまさか…。」
「グレイトドラゴンだ。」
「へあ。」
間抜けな声がクラトースから出た。
「立てるか。時間が惜しい。急ぐぞ。」
「うっうい。」
マイロたちはザムとゴザに助けられ、何とか立ち上がる。
ロックは周りを見渡し帝国兵の姿が無いことを確認すると、レイに声をかけた。
「急ぐぞ。」
「ああ。」
「にいに。ディーディーここまでだから気を付けてね。いってら~。」
ディーディーに見送られながら、レイたちは半壊した城の中に入っていった。




