23、パンツの中
マイロは牢屋の中で本を読んでいた。
ラガッシュ帝国に連れ戻され、日々魔族の研究を行っている。
空いた時間は過去の資料を牢屋に持ち帰り、読みながら何かを紙に書きつけていた。
一人で静かに過ごしたかったが、牢屋の外には見張りの兵士がいる。
隣の牢からはクマのような唸り声が聞こえてくる。
マイロを見張っている兵士はよほど暇なのか、椅子に座りながらあくびをしていた。
時々居眠りをすることがあり、その時が絶好のチャンスだ。
今日も見張りの兵士は上官がいないのを良いことに居眠りを始めている。
マイロは服の下から魔法袋を取り出すと、その中に資料を放り込んでいく。
代わりに本には適当に書きつけた資料を挟み、それっぽく綴じなおした。
この魔法袋はポッタから強引に借りたものだ。
ポッタは貸すのを渋っていたが、必ず返すこと、レイの無実の証拠を集めるために必要だと説得して、貴重な袋を借りた。
もう一つポッタが持っており、ここでコッソリ盗んだ資料はポッタの袋に転送されているはずだ。
頭の良いポッタだったらそれをどうするべきか分かるだろう。
牢屋に入れられるとき、身ぐるみ剥がされて粗末な服を着させられたが、パンツの中までは調べられなかった。
風呂に入らないマイロは少々臭っており、兵士たちはパンツの中まで調べたくなかったらしい。
股間に挟んだ魔法袋は見つかることなく牢屋に持ち込むことが出来た。
マイロは資料の入れ替えをコツコツやり、日々を過ごしていた。
自分がどうなるか分からない。
分かるのは用済みになったら殺されることだろう。
恐らく魔族にされて実験台とされるに違いない。
マイロが大人しく逃げようとしないからか、隣の男がうるさすぎるからか、見張りの兵士が時々サボるようになった。
この日も兵士がサボり、地下深くにある牢屋にはマイロと隣の男しかいなかった。
「おい。」
隣のクマ男がマイロに話しかける。
「俺はクラトース。お前は。」
「マイロ。」
「そうかマイロよろしくな。」
「よろしく。」
小さい声で挨拶したクラトースにマイロは返事をする。
「お前は何やったんだ。俺はな。」
クラトースはもっと小さい声で話し続けた。
「魔族にするって人間が殺されるところ見たんだ。兵士の時に。それで怒ったらこのザマだ。」
「俺も似たようなもんだ。魔族のこと知ったらこれだ。」
マイロは話を合わせることにする。
「お前は良いな。何時間か外に出れてよ。」
「無理やり魔族の研究をさせられてね。終わったら牢屋の中だ。」
「そうか。大変だな。」
「ああ。」
「俺たちこれからどうなんだ?」
「殺されて魔族にされるんだろ。」
「そんなの嫌だ。親父にもお袋にもしばらく会ってない。」
「うん。」
「結婚もしてないし子供もいない。俺の人生な。」
「うん。」
「こんなとこで終わるんかな。」
慌ただしく兵士がこちらに来る音が聞こえる。
交代の時間のようで、サボりがバレないように戻ってきたようだ。
マイロとクラトースはそれぞれ寝たふりをし、何事も無かったかのように過ごした。




