21、出陣
スミスがエラと一緒に大きな袋を担いで部屋に入ってきた。
「スミス。その袋は?」
レイが尋ねる。
「大変だったんだぞ。削るにも一苦労だ。」
「ん?」
「これだ。」
スミスは机の上に装備を丁寧に並べる。
鈍い光を放つ剣をレイは手に取る。
さすがスミスだ。
レイの手にしっくりくるように作られていた。
「オリハルコンから作ったもんだ。グレイトドラゴンのうろこから作った鎧もある。レイ、ロック、ゴザ、レシーア、もってけ。」
それぞれ装備を受け取っていく。
「時間が許す限り作ったんだがな。あとはチルのと。」
スミスが手早く装備を並べていくが、ザムとジャミの装備が無い。
レイはたまらずスミスに尋ねる。
「ジャミとザムの装備は。」
「それなんだが。」
スミスは気まずそうだ。
「体格とか分からなくてな。似たような体型の奴隷で一応作ったんだが。合う奴持ってってくれないか。」
「俺は防具だけだ。剣は親父がくれたのを持ってく。」
「俺も防具、これだけでいいや。」
ザムは鎧を、ジャミは足裏をガードする薄い防具を持っていく。
ドリュアスの蔓で作った草履のような防具だ。
「ジャミ、それだけで良いのか。」
「うん。」
レイはジャミを心配する。
再会してからずっと元気が無い。
ミナが死んだから無理も無いが、顔色がずっと悪い。
「一晩休息を取って明日の朝出発しろ。それまで俺たちは準備を続ける。」
「ああ。俺は工房に潜る。徹夜で作るさ。」
タリカとスミスは徹夜で準備をするそうだ。
それまでレイたち戦いに参加する者はわずかな休息をとることになるが、眠れそうにない。
それぞれの思いを胸に、久しぶりの家へと戻っていった。
翌日、レイたちは出発前の最後の点検をしていた。
ディーディーの背中にレイたちが乗り、レイの奴隷はマッチョリザードホーズで地上から帝国を目指す。
どちらにも乗れない者は走っていくことになる。
戦いに備えて何匹かリザードホーズを捕まえており、レイが従魔にした。
スミスたちは馬車を大森林の中を走れるように改造していた。
荷台を風魔法で少し浮かすというトンデモ仕様にしてある。
レイは準備を終えると、チルたち戦いに参加する奴隷たちに深々と頭を下げた。
「皆すまない。こんなことに巻き込んでしまって。」
「良いんですよ。」
代表してチルが屈託なく笑った。
「皆一度死んでるんです。今はレイさんに生かしてもらってるんですよ。」
「今更なんだよなあ。」
チルの隣でセイクルズの拠点から帰ってきたゴゴズも笑っていた。
「シュミム王国に魔族、俺たちゃ何度死線をくぐり抜けてると思ってるんですか。」
今までも激しい戦いがあった。
何を今更という感じなのだろう。
レイがディーディーに乗り込もうとした時、トムが軽快に走ってきた。
スミスが作ったハルバードと鎧を身に着け、チル以上の笑顔を見せる。
「トム、無理だろ。」
「いんや。ハリナにも行ってこいって言われましてね。今回は是が非でも付いて行きますぞ。」
トムはそのままディーディーの背中に乗り込んでしまった。
ディーディーに急かされ、レイも背中に乗る。
「タリカさん行ってきます。」
「ああ。無事に帰って来いよ。」
「カウミさん、ライルさん、俺の従魔をよろしくお願いします。」
「はい。ご心配なく。セイクルズの方々もいらっしゃいますし、大丈夫ですよ。」
ディーディーが力強く羽ばたく。
上空で思いっきり羽を広げると、一気に南へと飛びさった。




