12、呪い子
今から20年前、ラガッシュ帝国の皇帝に子供が生まれた。
双子の男の子だ。
皇帝は2人の子供に生まれた時から英才教育を施した。
特に長男には才能が感じられ、2歳になる頃には言葉をスラスラと話すことが出来るほど頭が良かった。
3歳で剣術を身に着けた長男を、皇帝はますます溺愛した。
そんな状況が一変したのはジャミが5歳のころだ。
教会から大神官が来て、2人の子供を鑑定するという。
どんな才能があるのかを見るためだ。
残念ながら弟には才能が無かった。
兄であるジャミは周囲の期待を一身に背負っていた。
こんなに賢く身体能力にも優れた子供が、何の才能も無いわけがないと。
だが、鑑定で出たのは『盗賊』だった。
皇帝最愛の息子が『盗賊』。
ただちに会議が開かれ、ジャミをどう扱うか話し合われた。
皇帝は余程ショックだったのだろう。
その日のうちにジャミを『追放』することが決まった。
ジャミは寝ている夜中の内に国境に運ばれ、大森林へと捨てられた。
現魔族領に捨てられなかったのは、少しでも生きられるようにというわずかな配慮があったのだろう。
森の中で目を覚ましたジャミは泣きながら森をさまよった。
剣術を習っていたからか盗賊特有の俊敏さからか、何とか生きながらえたジャミはシュミム王国へとたどり着く。
そこで森に隠れ住んでいた盗賊団に拾われ、盗賊として生きる日が始まった。
「汚ねえ虫が入ってきたと思ったら。兄さんでしたか。」
ジャミを踏みつけながら現皇帝ラガッシュ11世は笑っている。
髪の色・目の色・肌の色・体つきまでジャミとソックリだが、何故か邪悪さを感じる。
「お前え。」
ジャミは顔を床につけながら歯を食いしばった。
どこから情報が漏れたのか、マイロか、タリカ大領内の誰かなのか。
今はそんなことどうでもいい。
この状況の打開策を必死に考える。
ジャミの様子を楽しんでいるラガッシュ11世は、かなり饒舌になっている。
「兄さん、喜んでください。たっぷり拷問した後、魔族として生まれ変わることが出来ますよ。」
「無理だな。」
振り絞るようにジャミは声を出した。
キングリッチはもう死んだ。
以前と同じように頻繁に魔族は作れないだろう。
だが、ラガッシュ11世は余裕の表情で話し続ける。
「連れてたリッチはかなりの魔力量でしたね。あと北で暴れてる兄さんのお友達。両方捕まえたら魔族作りは大分捗ります。」
「てめえ。」
レイたちの攻撃が陽動だということも、ライバのことも知られている。
考えろ、考えろ。
必死にジャミがどう逃げるか考え続ける中、突然の後方で爆発音が聞こえた。




