10、置き去り
「ライバ!」
ミナの叫びにライバが反応する。
「アイロス。」
ライバの冷たい声を合図に、最高度の風魔法が放たれた。
風に耐え切れず兵士が壁に押し付けられたのを見て、ミナは風呂場へと駆けこむ。
「ジャミ!逃げるよ。」
「師匠、先行ってください。」
何を言っているんだとミナは言いたかったが、時間が無い。
ライバを先頭に急いで下水道に下りる。
「ゼルモーフ!」
先に下りたライバが焦って魔法を発動した。
ライバに続いて下水道に下りたミナが見たのは、数えきれないほどの兵士だ。
罠にかかったのだと気付いたがもう遅い。
ライバが属性を変えながら高火力の魔法を撃ち続けているが、兵士が絶え間なく湧いて出てくる。
「師匠上がって!」
ジャミの声にミナは反射的に風呂場へと戻った。
ジャミは既に兵士たちを倒していて、廊下へと続く扉が開いている。
「こっち!」
「ライバ!」
ジャミを先頭にミナ、ライバと廊下へと逃げ出す。
こちらにも兵士はいたが、下水道と比べたら少ない。
ミナもジャミもレベルが100を超えているため、相手がアダマンタイト製の装備でも敵ではない。
ミナとライバは倒し、逃げながらジャミの後に続いた。
「ここ。」
ジャミは何の変哲もない小部屋へと逃げ込んだ。
「ここ?」
ジャミが黙って壁の一部を押すと、ガコッと音がして壁の一部が開いた。
人ひとりがやっと通れるくらいの通路が奥まで続いている。
「何で。」
ミナが疑問に思うのも無理はない。
マイロから貰ったメモには、この通路のことは書かれていなかったはずだ。
廊下から足音が複数聞こえてくる。
生き残った兵士たちが追いかけてきたようで、ジャミは急かしてきた。
「早く。」
ミナの疑問に答えることなく、ジャミは2人を隠し通路へと押し込んだ。
それと同時に、通路を隠していた壁が2人とジャミの間を隔てるように閉じてしまう。
「ジャミ!」
「ミナ!俺は大丈夫だから。逃げて。」
師匠ではなくミナと呼んだジャミに不安を覚えながら、ミナとライバは先へと急ぐ。
どこに続いているか分からないが、ジャミを信じて進むしかない。
「無事で。」
小さく呟いたミナの目には涙が浮かんでいた。
壁で退路が断たれたジャミは駆け付けた兵士相手に戦っていたが、疲れからか動きが段々鈍くなる。
意識が少し遠のいて足元がふらついた所を狙われ、捕らえられてしまった。
後ろ手に縛られ、首に木枠をはめられる。
「命令だ。生きたまま連れていけ。」
兵士長らしき男の命令で、ジャミはどこかへと引きずられていく。
階段を上り立派な扉の先に連れてこられたジャミは、目の前の玉座に座る男を見て、歯を食いしばった。




