9、潜入
ラガッシュ帝国の城は静まり返っていた。
レイとザムの陽動作戦が効いたのだろう。
城内にはわずかな兵しかいない。
ミナとジャミ・ライバは、地下を流れる下水道から城内への侵入に成功した。
ここまではかなり順調だ。
誰に見られることも無く、町を避け街道を避け、森や荒れ地を駆け抜けた。
3人の足はかなり速く、馬車なら2週間ほどかかる道のりを5日で走り抜けた。
今は下水道からの侵入者を阻む柵を壊し、目的地へと進んでいく。
ミスリルで作られた柵だったが、時間をかけて人ひとりやっと通れるくらいの穴を開けた。
声を出さず最低限の合図とジェスチャーで、目的地の真下までやってきた。
天井を少し削るがむき出しになったミスリル合金を見ると、ミナは首を横に振る。
ジャミは顔を少ししかめると、3人は少し進んだところにある穴の真下に移動した。
マイロの研究室は人目に付かないよう地下に作られた。
そこで全ての事が済まされるよう、小さい台所や風呂場が研究室の横に作られたと、マイロのメモには書いてある。
今回はその風呂場から研究室を目指すつもりだ。
トイレとも繋がっているため多少は汚いだろうが仕方がない。
風呂とトイレに繋がる下水管を見つけると、音を立てないように静かに周囲の床を削り始める。
ミナとジャミで交代しながら少しずつ。
2人とも顔から滴り落ちるほど汗をビッシリかいた頃、ようやく人ひとり通れるくらいの穴が出来た。
管を慎重に抜いてしばらく様子を伺う。
何の音も聞こえないことを確認すると、まずはライバが床を通り抜けて上の様子を確認した。
ライバの合図でまずミナが、そしてジャミが風呂場へと這い出る。
風呂場は質素な作りで、風呂桶とトイレ、小さな洗面台が付いていた。
ライバは続いて隣の部屋に誰もいないことを確認する。
ライバの合図で2人はそっと研究室へと入った。
研究室は意外と広く、天井まで届く棚にビッシリと本や資料が詰め込まれている。
今ミナたちが入ってきた風呂場の他に2つ扉があり、1つは台所に、1つは城の廊下へと続く出入り口のようだ。
中央には人間に魔石を埋め込むための手術台があり、黒く鉄臭い染みが付いている。
四隅には拘束具があり、ミナは思わず顔をしかめた。
2人は棚から手あたり次第に資料を抜き出し、魔法袋へと放り込んでいく。
転移の魔法袋に放り込まれた資料は、タリカとレシーアの元に届けられる。
タリカたちがそれらの資料を読んで、証拠として保管する手筈になっていた。
ライバは出入り口の扉を見張っている。
誰かが来たら、素早くミナたちに合図を送り逃げる予定だ。
今でもこの研究室は使われているのか、資料にほこりは積もっていない。
手術台脇にある道具もこまめに手入れされているようだ。
時間はかけられないため資料の中身は読んでいない。
音を立てないように資料を素早く魔法袋に入れていく。
思えばここまで順調だったことで油断していたのかもしれない。
台所に続く扉が突然開いたかと思うと、武器を持った兵士たちがなだれ込んできた。
「動くな。殺すぞ。」
兵士の声に、ミナとジャミの動きが一瞬止まった。




