8、託された手紙
トホス帝国の防壁内では、人々が慌ただしく動いていた。
突然ゴブリンの集団が禁足地から現れたからだ。
だがこちらを攻撃するでもなく、何かを叫んでいる。
興奮しているのか内容が全く分からない。
「殺しましょうか。」
レイの奴隷の1人がポッタに尋ねた。
「いえ。あれはレイさんから聞いた禁足地に住む種族の方々かと。」
「何しに来たんでしょうね。」
「何か訴えてるようだが。分からない。」
防壁の上から戸惑いながら観察していると、少しガッシリした体のゴブリンが出てきた。
ゴブリンは大きく息を吸い込むと、片言の言葉で叫ぶ。
「ポッタ!オレ!レイノ!トモダチ!」
「ん?レイさん?」
「ポッタ!タスケテ!マイロ!アブナイ!」
「行きます。」
即座に行こうとするポッタをレイの奴隷が止める。
「罠かもしれません。」
「でも行かないと。マイロさんってこの間来た方です。」
マイロは突然トホス王国に来て、レイと連絡が取りたいと言ってきた男だ。
ポッタから強引に通信袋を奪い取り、レイと何か話していた。
レイは最初怒っていたが、話すうちに口調が和らいだのを覚えている。
レイと知り合いのマイロの身に何か起こったのかもしれない。
頑なに行こうとするポッタに根負けしたのか、レイの奴隷たちが同行することになった。
ポッタはギリギリまで剣を抜かないようにお願いし、ゴブリンの元へと走っていく。
何故か気持ちが焦って思わず足が速くなる。
「お待たせしました。私がポッタです。」
ゴブリンの前で挨拶をする。
ゴブリンに似ているが、よく見るとゴブリンよりも目が大きく鼻が曲がっていない。
口も飛び出ていないため、よく見れば可愛いかもしれない。
ポッタは優しく尋ねる。
「あなたたちは誰ですか。」
「…ポポルック。」
ポポルックの族長は短く返事をすると、握りしめた紙をポッタに差し出した。
目に涙を溜めている。
ポッタは差し出された紙を丁寧に受け取ると、中を見る。
小さく丁寧な字で書かれた紙を読むにつれ、ポッタの顔が青くなっていった。
「ポッタさん、大丈夫ですか。」
レイの奴隷が心配して尋ねた。
ポッタは顔を上げると、青い顔のまま振り向いて言った。
「レイさんに連絡しないと、早く。これが本当ならレイさんが危ない。」




