7、限界
「レイ、まだ撃てるか。」
「無理だ。もうポーションが喉を通らん。」
レイは鼻血を出している。
町に向けて魔法を撃ち続け、もうすぐ夜が明けようとしている。
ザムの足元には帝国軍が差し向けた斥候2人が真っ二つになって転がっていた。
「限界だな。休むか。」
「ああ。仮眠とれるとこ…。」
言い終わらないうちにレイが膝をついてしまう。
ザムはレイを担ぐと、北に向けて一気に走り出した。
3時間も走ればディーディーの所に着くはずだ。
ディーディーの背中で仮眠を取ることにする。
ザムも一睡もしていないため足元がふらつく。
根っこに足を取られながら、何とかディーディーの元にたどり着いた。
「クピー。」
ディーディーは仰向けになって寝ている。
大森林に生息する魔物は全く敵ではないようだ。
警戒心がまるでない。
ディーディーはお肌に悪いからと、夜はしっかり眠る派だ。
「ディーディー。」
「ふわっ。ふん。にいに、おはよ。」
「ああ。仮眠を取りたい。」
「そこに洞窟あるよ。中の魔物はうるさいからほじくり出した。」
ディーディーの指さす方向を見ると、小さい岩山に奥行きの無い洞窟というよりも穴ぐらがあった。
ザムは魔法袋からベッドを取り出すと穴ぐらに並べて、レイをそっと寝かせる。
ザムは袋の中にあったパンと肉をかじり、水を飲むと、ディーディーに向かって言った。
「見張りを頼む。俺たちは少し寝る。」
「おーけー。周りに魔物いないから安心して。」
ディーディーの言葉を聞いて安心したのか、ザムはふいに意識を手放した。
仮眠を取り夕方前からまた攻撃を再開する。
体力も魔力も十分なはずだが、体のだるさが抜けない。
レイたちの攻撃の威力が徐々に落ちていく反面、帝国軍の攻撃は増してきている。
救援が来たのだろう。
「いいぞ。もっと派手にやろうか。」
レイは力なく笑い、杖を力強く握りしめた。
全属性の最高火力の魔法をランダムに撃ち続けている。
人間を殺すのはこれで3度目か。
最初は盗賊を、次に自分を殺した3人を、そして今回だ。
今回は特に気が重い。
もしかしたら何の罪もない市民を殺しているかもしれない。
だが少しでも攻撃を緩めれば自分たちが殺される。
ミナたちが見つかる可能性もある。
ギリギリまで攻撃して、最終的には城から帝国兵を引きずり出さなければならない。
魔法袋に大量にストックしてある魔力ポーションを飲みながら最高火力の魔法を撃ち続けているため、体が悲鳴を上げている。
「ゼルモーフ!」
高温で周囲の空気が歪むほどの火魔法を町に向けて撃つ。
相手は水魔法で跳ね返そうとしているが、圧倒的な差で町が炎に飲み込まれていった。
レイの息が上がり、鼻から血が噴き出してくる。
まだ夜明けまで間がある。
「限界か。退避…むっ。」
ザムが昨日と同じくレイを担いで逃げようとするザムの背中目掛けて短剣が投げられた。
腰を捻ってはじき返すが、何人か斥候がこちらに来ているようだ。
何人いるのか、どこにいるのか分からない。
ザムは剣に魔力を込めると、一文字に振り切った。
剣先から白い光が放たれ、暗闇から短い悲鳴が上がる。
ザムはその悲鳴を合図に北へと走り出した。
この方法がいつまで通用するか分からない。
だが限界まで続ける必要がある。
暗闇の中足元を取られながら、4時間ほどかけてディーディーの所に戻った。
既に夜は明けている。
「ディーディー。」
「にいに。任せて。」
ディーディーの声を聞いて、ザムは再び意識を手放した。




