6、伝説の装備を
時はさらに少しさかのぼり、レイが陽動作戦を始める前、その準備に奔走していた頃。
スミスはタリカに呼ばれ、旧国境の砦にいた。
鈍い金色の壁や天井や床を見回し、額の汗を拭う。
タリカには好きにして良いと言われたが、神が作ったという伝説が残るこの砦を壊すのは勇気がいる。
「待ってろ。最高の武器を作ってやる。」
アダマンタイト製の金づちとのみを持ち、床の一部を全身の力を込めて削り取ろうとする。
だが一瞬にして金づちとのみが壊れ、床には傷ひとつ付いていなかった。
「無理かもしれん。」
スミスは後ろに立つタリカに言う。
「だがこの砦作れたんなら剣くらい出来るだろ。」
「俺は神じゃねえ。傷ひとつ付いてねえんだぞ。」
「神の灯を使え。」
「どうやって。」
「頭使え。俺は別のことに頭を使う。」
「適当なこと言いやがって。」
「おう。それが俺だ。」
ニヤリと笑ったタリカは部屋を出て行ってしまった。
また汗が噴き出してくる。
レイの奴隷になり、ドラゴンやゴーレムを倒し続けて大分レベルが上がった。
だがアダマンタイトの装備を作る以上のことが出来ない。
オリハルコン。
神の金属とも言われているオリハルコンでこの砦は出来ている。
アダマンタイトですら粉々にするこの金属をどうやって削り、どうやって武器を作るのか。
スミスは肩をすくめると、削ることを諦めて町に戻った。
ザムがレイたちに合流し、明日の朝ラガッシュ帝国に向けて出発するという夜。
スミスはレイたちとささやかな飲み会を開いていた。
飲み会といっても酒は無しだ。
重要な任務を前に二日酔いになってはたまらない。
スミスの前に果実から作ったジュースが出される。
スミスが食事と合わんなと思いながらチビチビ飲んでいると、ザムがスミスに近寄ってきた。
スミスはザムのことをいまいち信用していない。
魔族だし、何を考えているか分からない。
警戒しているスミスに、ザムはおずおずと腰に付けた魔法袋から大きな丸い金属を取り出した。
ザムの背よりも大きいが、ザムが片手で持っている所を見るとかなり軽いようだ。
ザムが高く掲げると少し形を変えている。
「お前がスミスか。」
ぶっきらぼうなザムの問いに、スミスはぶっきらぼうに答える。
「そうだ。」
「鍛冶師か。」
「そうだ。」
「アダマンタイトも扱えると聞いた。」
「そうだが、何が言いたい。」
「これで防具を作って欲しい。」
ザムが丸い金属をスミスに突き付ける。
「何だこれ。」
スミスは思わず受け取ってしまったが、今まで見たことのない金属だ。
物珍しそうに表や裏を見ている。
「ディーディーのうろこだ。」
「うろこ…。」
「つまり、グレイトドラゴンのうろこだ。」
「ぶっ!」
スミスの鼻からジュースが出た。
隣にいたエラが「汚~い。」と引いて少し離れた。
ザムがスミスの隣に座る。
聞くと昔ディーディーから自然にはがれたらしい。
魔族領にも人間時代鍛冶師だった男がおり、加工しようとしたが出来なかったそうだ。
「無理だろ。加工なんて出来んぞ。」
「他に頼める奴がいない。」
「だがなあ。」
スミスとザムの話を黙って聞いていたエラが会話に加わる。
「スミスさん、やりましょう。考えましょう。」
「だが。」
「作りたいんでしょ。だったら作れるよう2人で考えましょうよ。」
エラは絶対諦めない。
出来ないだろうと思われたものまで、徹夜して考えてでも作ってきた。
エラはスミスと自分が力を合わせればオリハルコンもグレイトドラゴンのうろこも加工できると信じていた。
スミスは気恥ずかしように頬を掻きながら言った。
「そうだな。手伝ってくれるか。」
「はい!」
エラの元気な返事と共に、夜が更けていった。




